銀行はあなたの会社の格付けを教えてくれません。しかし、決算書の5つの指標と銀行の行動から、自社がどのレンジにいるかは10分で推定できます。本記事はその手順だけに絞って解説します。
1. なぜ銀行は格付けを開示しないのか
内部格付けは銀行の与信管理・引当金算定に直結する内部情報であり、開示すると交渉材料に使われるため、原則として教えてくれません。ただし、格付けの算出ロジック自体はどの銀行も大枠で共通です。だから自分で推定できます。
2. 決算書から推定する5つの指標(10分)
直近の決算書を手元に、次の5つを電卓で計算してください。
| 指標 | 計算式 | 安全圏の目安 |
|---|---|---|
| ① 債務償還年数 | 有利子負債÷(経常利益+減価償却費−法人税等) | 10年以内 |
| ② 実質自己資本 | 純資産−(役員貸付金+滞留債権+不良在庫+含み損) | プラス(債務超過でない) |
| ③ 自己資本比率 | 純資産÷総資産 | 20%以上 |
| ④ 経常利益 | ── | 2期連続赤字でない |
| ⑤ 現預金月商倍率 | 現預金÷月商 | 1ヶ月分以上 |
判定の目安は次のとおりです。
- 5つすべて安全圏: 正常先の中位以上。金利交渉・経営者保証解除の交渉余地が十分あります
- ①②は安全圏だが③〜⑤に欠け: 正常先の下位。一期の赤字で要注意先に落ちうる位置です
- ①または②が圏外: 要注意先相当の可能性。債務者区分の改善に今すぐ着手してください
②の実質自己資本は、銀行が内部で作る「実態バランスシート」の簡易版です。減額される科目の全リストは完全ガイド第3章をご覧ください。
3. 銀行の行動から読む(裏取り)
数値の推定結果は、銀行の行動と突き合わせると精度が上がります。
- 上位の証拠: 借りていないのに融資提案が来る、当座貸越枠の設定に応じる、プロパー融資がある
- 下位の証拠: 新規はすべて保証協会付きを求められる、追加担保の打診、決算書の提出督促が厳しくなる、担当者の訪問が減る
とくに「プロパー融資の有無」は、銀行が自行のリスクを取っているかどうかの直接的な証拠であり、最も信頼できるシグナルです。
4. 推定したら、次にやること
推定結果が安全圏なら、その決算書を武器に金利・保証の交渉に進んでください。圏外の指標があるなら、決算前90日からの改善です。手順は銀行格付けの上げ方で、効果の出る順に7つ解説しています。
5. よくある質問
Q1. 銀行に直接聞いたら本当に教えてくれませんか?
A. 区分や格付けの号数は教えてくれません。ただし「当社の財務課題はどこですか」という聞き方なら、見ている箇所を示唆してくれることが多く、聞く姿勢自体が定性評価のプラスになります。
Q2. 信用調査会社(帝国データバンク等)の評点と銀行格付けは同じですか?
A. 別物です。ただし見ている要素(財務・支払能力)は重なるため、評点の急変は銀行の見方の変化を占う参考にはなります。銀行は自行の取引データと決算書で独自に算定します。
Q3. 銀行ごとに格付けは違いますか?
A. 違います。配点や取引履歴が異なるためです。ただし決算書という共通のインプットが7〜8割を決めるので、大きくは乖離しません。1行で評価が崩れたら、他行でも時間差で崩れると考えるべきです。
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▶ 関連記事:確認後にやること:格付けを上げる7つの手順/スコアリングの仕組みを詳しく知る
6. 実際に数値を当てはめてみる——簡易ケーススタディ
架空の例で、5指標の使い方を確認します(説明のための一例で、特定企業の実績を示すものではありません)。有利子負債8,000万円・経常利益600万円・減価償却400万円・法人税等100万円の会社の場合、債務償還年数は8,000万円÷(600万円+400万円−100万円)=約8.9年となり、①は安全圏(10年以内)に入ります。一方、純資産1,000万円のうち役員貸付金600万円・滞留売掛金200万円があれば、実質自己資本は1,000万円−800万円=200万円まで圧縮され、③の自己資本比率は帳簿上の数字より大きく見劣りします。このように、①が安全圏でも②③が圏外というケースは珍しくなく、5つすべてを確認して初めて実態が見えてきます。
7. 決算書だけでは見えない「もう一つの手がかり」
5つの指標に加えて、金融機関からの郵送物の変化も参考になります。金利見直しの通知が届く頻度、担当者からの決算資料の督促のタイミング、支店長訪問の有無なども、銀行内部の評価変化を映す間接的なシグナルです。特に、これまで年1回だった決算資料の提出依頼が四半期ごとに変わった場合は、モニタリングの強化=格付けの警戒レベルが上がっているサインである可能性があります。数値の推定と、こうした行動面の変化をあわせて確認することで、より確度の高い自己診断ができます。
8. 推定結果を経営会議・顧問税理士と共有する
自己診断の結果は、社内だけで抱え込まず、顧問税理士や(社外役員がいれば)経営会議で共有することをおすすめします。税理士は決算書の数字を最もよく把握している立場であり、5指標の計算や、実質自己資本の算定に必要な科目の特定を手伝ってもらいやすい相手です。また、複数の目で確認することで、経営者一人では気づきにくい改善点(たとえば長期間精算されていない仮払金など)が見つかることもあります。年に一度、決算確定後のタイミングで、この5指標を確認する会議体を設けておくと、格付けの変化を継続的にモニタリングできます。
著者プロフィール
岸 泰裕|早稲田大学大学院MBA(金融工学)。外資系金融機関を経て、東証上場企業の財務部長・財務責任者を歴任。480億円のシンジケートローン組成、R&IのA-格付取得を主導し、東証グロース市場への上場(2025年3月)に財務・IR担当として関与。現イグニションポイント株式会社 財務担当マネージャー。明治大学リバティアカデミー講師。著書3冊。近著『日本株「配当×株主優待」で生活費消し込み投資』(ART NEXT)。
著者
岸 泰裕(きし やすひろ)
早稲田大学大学院金融工学MBA取得。元外資系バンカー。財務・IR・ガバナンス・ESG専門。著書3冊、累計調達額480億円、明治大学リバティアカデミー講師(2014年〜)。