ドルコスト平均法の「誤解」——積立投資は最強ではないと元外資系バンカーが言う理由

ドルコスト平均法(積立投資)は「最強の投資法」ではありません。統計的には、一括投資が積立を上回るケースの方が多い。それでも積立が合理的なのは、「資産がない人が毎月給与から投資する唯一の方法」だからです。今回は、外資系金融機関で15年間働いた経験をもとに、「積立最強」という神話の正体と、本当に積立が有効なケース・そうでないケースを正直にお伝えします。

ドルコスト平均法とは何か

毎月一定額を投資することで、価格が高い時には少ない口数を、安い時には多い口数を自動的に購入する方法です。

たとえば、毎月1万円をある投資信託に積み立てるとします。基準価額が1万円のとき、1口購入。翌月8,000円に下がれば1.25口購入。再翌月1万2,000円に上がれば0.83口購入。こうして同じ金額を投じ続けることで、自然と「安い時に多く、高い時に少なく」買える仕組みになります。

「平均取得コストを下げる効果がある」と言われますが、これには重要な前提があります。価格が大きく上下に振れている局面、特に「下がってから上がる」局面でのみ優位性が発揮されます。ずっと右肩上がりの相場では、一括投資の方が結果は良くなる。この基本を理解せずに「積立は絶対安心」と信じ込んでいる方が多いのが、私が気になっていることのひとつです。

「一括投資 vs 積立」バンガード研究が示した不都合な事実

バンガード社が2012年に発表した研究(米・英・豪の市場で検証)によると、一括投資はドルコスト平均法を「約3分の2の期間で上回る」結果が出ています。

具体的な数字で言うと、月次リターンが一括投資の方が平均2.39%高かった(米国市場、1926〜2011年データ)。金額に換算すれば、100万円を20年運用した場合の差は数十万円単位になります。

理由は単純です。株式市場は長期的に上昇傾向にあるため、早く投資した方が複利効果を長く得られる。積立投資は、最初の資金の多くが「まだ市場に入っていない状態」で眠っています。この「待機中のコスト」が積み重なって、一括投資との差になります。

私がスタンダードチャータード銀行の財務部門にいた頃、こうした研究を何度も分析しました。外資系の機関投資家や富裕層顧客へのアドバイスでは、まとまった資金があれば一括投資が基本でした。「リスク分散のためにあえて積立にする」というのは、確率的に見れば合理的ではない。ただ、それを実行できるだけの精神的な強さと資金が必要でした。

では、残り3分の1のケース——つまり積立が一括投資を上回るケースとは何でしょうか。投資直後に大きな下落が来た場合です。その「タイミングの悪さ」のリスクを嫌う人に積立は有効です。2008年のリーマンショックや2020年のコロナショック直前に一括投資した人は、まさにこの「3分の1」のケースに当たりました。

それでも積立投資が多くの人にとって合理的な理由

では「積立は不利なのだからやめた方がいい」かというと、それは全く逆です。大多数の人にとって、積立投資は最も現実的で、最も継続しやすい資産形成の手段です。

理由は3つあります。

① まとまった資金がない

一括投資が統計的に有利でも、手元に投資できる現金がなければ実行できません。月収25万円の会社員が毎月3万円を積み立てるという行動こそ、現実の資産形成です。「一括投資の方がいい」という話は、「今すぐ使える現金が300万円以上ある」という前提が必要です。

② 行動ファイナンスの落とし穴——人は暴落に耐えられない

私がセミナーでよく話すことがあります。「理論的に最適な投資法より、自分が継続できる投資法の方が圧倒的に優れている」という話です。

100万円を一括投資した翌月に20%下落したとしましょう。20万円が消えた状態で「長期的には回復する」と信じて保有し続けられる人が、果たしてどれだけいるでしょうか。実際には、多くの人がここで売ってしまいます。この「狼狽売り」による損失は、積立投資と一括投資の差をはるかに上回ることがほとんどです。

積立投資の最大の強みは、価格変動への心理的耐性を自然に育てることです。毎月3万円が自動的に引き落とされる仕組みを作れば、相場が下がった月は「安く買えるチャンス」として感情的に受け入れやすくなります。

③ 生活防衛資金の確保

全財産を一括投資するのは、緊急資金がゼロになるリスクがあります。突然の失業、病気、住宅修繕。こうした事態に備えて生活費3〜6ヶ月分の現金を手元に置いておくのは、資産形成の大前提です。積立投資は「余剰資金を少しずつ」という仕組みに適しています。

月3万円・20年積み立てたら実際いくらになるか

「理屈はわかった。では、実際にいくらになるの?」

明治大学のエクステンション講座でも必ずこの質問が出ます。数字で見た方が実感が湧くので、具体的に計算してみましょう。

月3万円・20年積み立ての試算

年率リターン 積立元本 運用後の金額 利益
3%(保守的) 720万円 約982万円 約262万円
5%(現実的) 720万円 約1,233万円 約513万円
7%(楽観的) 720万円 約1,558万円 約838万円

重要なのは、年率5%というのは「オルカン(全世界株式インデックスファンド)の長期平均リターン」に近い数字だということです。過去30年の米国株(S&P500)の年率リターンは約10%でした。5%は決して夢物語ではありません。

さらに20年ではなく30年続けた場合はどうなるか。

年率リターン 積立元本 運用後の金額 利益
5% 1,080万円 約2,498万円 約1,418万円
7% 1,080万円 約3,673万円 約2,593万円

30年・年率5%で積み立てると、元本1,080万円が約2,500万円になる。「老後2,000万円問題」がこれで解決します。

ただし注意点があります。これはインフレ調整前の名目リターンです。仮に年率2%のインフレが続いた場合、実質的な購買力は約25〜30%目減りします。そのため「名目では5%を目指しながら、実質では3%程度の購買力維持」を目標に設定するのが現実的です。

新NISAとドルコスト平均法を組み合わせる正しい方法

2024年から始まった新NISAは、ドルコスト平均法との相性が抜群です。具体的な活用法をお伝えします。

積立投資枠(年120万円)の使い方

ここは迷わず毎月1万円から10万円の定額積立に使います。ファンド選びは後述しますが、基本はオルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)か米国株インデックス(eMAXIS Slim 米国株式 S&P500)の1本か2本に絞る。

積立投資枠の最大の強みは「NISA口座内で積立投資の非課税メリットを最大化できる」点です。20年後に仮に1,200万円(年率5%前提)に成長した利益部分が全て非課税になる。これは普通の特定口座と比べると、利益の約20%分の節税効果があります。利益が500万円なら、約100万円の税金が浮く計算です。

成長投資枠(年240万円)との組み合わせ

成長投資枠は一括投資または集中投資に向いています。ある程度まとまった資金(50万円以上)を、特定のテーマや個別株に投資する際に活用します。「積立投資枠で毎月コツコツ、成長投資枠で機動的に」という二段階の戦略が、新NISAを最大限に使う方法です。

生涯投資枠1,800万円の計画的な消化

新NISAの生涯非課税枠は1,800万円(成長投資枠は1,200万円が上限)。月10万円の積立なら15年で満額になります。もし月5万円なら30年。このペースを意識しながら積立額を設定することが重要です。先に満額を埋めた方が非課税で運用できる期間が長くなるため、余裕があれば早めに満額を目指すことをお勧めします。

外資系バンカーが見た「積立投資で負ける人」の共通点

私がこれまで関わってきた富裕層顧客や、明治大学の社会人講座の受講生を見てきて、積立投資で失敗する人には共通したパターンがあります。

暴落のたびに止める

2020年3月、コロナショックで日経平均が1ヶ月で30%以上下落しました。この時期、多くの方が積立を停止しました。ところが翌年には日経平均は史上最高値を更新しました。暴落時に積立を止めることは、「バーゲンセールの日にスーパーを閉める」のと同じです。最も安く買えるタイミングを自ら放棄する行為です。

統計的に見ると、積立投資の長期リターンのうち、下落相場で買い続けた部分が大きく貢献しています。暴落で止める投資家は、積立投資の最大の恩恵を自ら捨てています。

高コストのファンドを選んでいる

信託報酬が年1%のファンドと0.1%のファンドでは、20年後のリターンにどれほどの差が生まれるでしょうか。月3万円・年率7%(信託報酬除く)・20年で試算すると、信託報酬0.1%のファンドは約1,544万円。信託報酬1.0%のファンドは約1,376万円。差額は168万円。積み立てた総額720万円の約23%もの差がつきます。「ちょっとくらい高くても優秀なアクティブファンドの方がいい」という直感は、データが否定しています。コストは確実にリターンを食います。

「分散」と「集中」を混同する

積立投資をしながら、個別株で集中投資を繰り返す人がいます。これは積立の安定性を自ら壊す行為です。積立投資枠はインデックスファンドで分散し、リスクを小さく抑える。もし個別株に挑戦したいなら、それは成長投資枠で別予算で行う。この区別ができていない人は、積立が増えても個別株の損失で相殺され続けます。

どのファンドに積み立てるべきか——3つの基準

「結局どのファンドがいいんですか?」

これが最も多い質問です。私の答えはシンプルです。次の3つを満たすファンドを選んでください。

基準1:信託報酬が0.2%以下であること

現在の日本では、eMAXIS Slimシリーズ(三菱UFJアセットマネジメント)やSBIのVシリーズが0.1%以下を実現しています。これ以上のコストのファンドに長期積立する理由は、ほとんどありません。「運用コストは唯一、確実にわかるリターンのマイナス要因」です。

基準2:純資産残高が1,000億円以上であること

ファンドが小さいと繰上償還(強制終了)のリスクがあります。長期積立の途中で運用が終わってしまうと、税務上の不利が生じることもあります。eMAXIS Slim 全世界株式や同 米国株式は数兆円規模で、この心配は不要です。

基準3:インデックス型であること

アクティブファンドはマーケット平均に勝つことを目指して高い信託報酬を取りますが、長期で見るとインデックスに勝ち続けたファンドはわずかです。「優秀なファンドマネージャーを選べばいい」と思う方もいますが、今年優秀だったマネージャーが来年も優秀とは限らない。低コストのインデックスファンドに積み立てて「市場平均のリターンを確実に取る」戦略が、長期では最も合理的です。

具体的な候補として、現時点で私が積立投資枠として適切と考えるファンドは以下の3本です。

  • eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー):全世界約50カ国に分散、信託報酬0.05775%
  • eMAXIS Slim 米国株式(S&P500):米国主要500社に集中、信託報酬0.09372%
  • 楽天・S&P500インデックス・ファンド:米国集中、低コスト

どれか1本に絞るなら、私は新NISAの積立投資枠ではオルカン1本をお勧めしています。理由は「世界中の株式に分散されているため、米国が長期低迷しても他の地域がカバーできる」という分散効果にあります。米国一強の時代がこれからも続くかどうかは誰にもわかりません。分散こそが、長期投資家の唯一の確実な武器です。

まとめ——積立投資で成功するたった1つの条件

長々と書いてきましたが、最後に一番重要なことをお伝えします。

ドルコスト平均法の成否は、ファンド選びでも積立額でもありません。

「暴落時に止めず、淡々と続けられるかどうか」——これだけです。

月3万円をオルカンに30年積み立てれば、理論上2,000万円以上になります。この「理論」を現実にできた人と、できなかった人の差は、途中で止めたかどうかだけです。

「最強の投資法」は、あなたが長期間続けられる方法です。毎月自動引き落としを設定して、相場の上下を「見ない勇気」を持つ。私がセミナーで伝えているのは、投資の技術ではなく、この「続ける覚悟」です。

「積立最強」という言葉は正確ではありませんが、「積立を続ける人が最強」というのは、間違いなく本当のことです。

「暴落時こそ止めるな」——コロナショックとリーマンショックのデータ

理論的な話だけではピンと来ないという方のために、実際の暴落データを使って積立投資の効果を検証してみましょう。

リーマンショック(2008年)での積立投資

2007年1月から毎月3万円ずつeMAXIS Slim 米国株式(S&P500連動)に相当するファンドに積み立てていたとします。2008年9月のリーマン破綻後、S&P500は約50%暴落。もし2009年3月の底値で積立を止めてしまった人と、淡々と続けた人では、2013年末(底値から約4年後)の資産額に大きな差が生まれました。

止めてしまった人:元本は損失を抱えたまま塩漬け。回復のチャンスを逃す。

続けた人:底値で大量に買い続けたことで、平均取得コストが大幅に下がり、回復後のリターンが劇的に改善。

「最悪の暴落」が実は「最大のチャンス」になるのが積立投資の真髄です。これは理論ではなく、実際のデータが証明していることです。

コロナショック(2020年)での積立投資

2020年2月末から3月末の約1ヶ月で、日経平均は31,000円台から19,000円台へと約38%暴落しました。私はこの時期、明治大学の講座で「今こそ積立を止めるな」と強調していました。結果として、2021年2月には日経平均は30,000円台を回復し、積立を続けた受講生の多くは大きなリターンを得ました。

重要なのは、暴落の「底値」が事前にはわからないという点です。もし底値を予測して一時停止→底値で再開という戦略を取ろうとすれば、ほぼ必ず失敗します。底値は「あとから振り返ってわかるもの」で、リアルタイムでは誰にもわかりません。だからこそ「止めない」が最強の戦略になります。

積立投資の「感情的バイアス」を克服する方法

「暴落時も止めるな」と頭でわかっていても、実際に口座残高が30%減ったのを見ると、人間は感情的に動いてしまいます。これは意志力の問題ではありません。人間の脳が本能的に「損失を避けようとする」ようにできているからです。行動経済学では、これを「損失回避バイアス」と呼びます。

対策として有効なのは、「見ない仕組み」を作ることです。

具体的には:

  • 証券口座のアプリをスマホのホーム画面から消す:積立設定が完了したら、アプリを「見にくい場所」に移動する。ワンタップで確認できる環境が「頻繁な確認→感情的な判断」を生む。
  • 自動引き落としに設定して「存在を忘れる」:毎月の給与口座から自動的に積立される設定にし、「投資している」という意識をなるべく薄くする。
  • 確認頻度を決める:積立の状況確認は「年に2回(6月と12月)だけ」などとルールを作る。毎日確認する人ほど、短期の値動きに翻弄されて失敗する。

外資系金融機関にいた頃、私自身も「相場を毎日見る仕事」をしていました。そこで学んだのは、「毎日見ている人ほど、長期の大局を見失う」という逆説です。個人の資産形成においては、相場に近づきすぎないことが重要です。

積立投資の「始め方」——口座開設から設定完了まで

ここまで読んで「よし、始めよう」と思った方のために、具体的な手順をお伝えします。迷う時間を最小化するため、私が「これで十分」と考える最短ルートを示します。

ステップ1:証券口座を開く(SBI証券 or 楽天証券)

どちらでも大差ありません。すでにどちらかの口座を持っているならそちらで。なければ、楽天銀行との連携(自動入金)が便利な楽天証券か、投信の取扱数が多いSBI証券を選びましょう。口座開設は最短翌営業日から可能です。

ステップ2:NISA口座を設定する

証券口座を開いたら、NISA口座を申し込みます。税務署との手続きがあるため、利用開始まで2〜3週間かかります。早めに申し込んでおくことをお勧めします。

ステップ3:積立ファンドを選ぶ

前述の通り、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」1本でOKです。検索ボックスで「オルカン」と入力すれば見つかります。

ステップ4:積立額と引落日を設定する

毎月いくら積み立てるか決めます。目安は手取り収入の10〜20%。月収30万円なら3〜6万円。「生活が苦しくならない範囲」で設定してください。無理な金額を設定して途中で止めるくらいなら、少額でも確実に続ける方が長期ではずっと良い結果になります。

引落日は月初(1〜5日)に設定するのがお勧めです。「給与が入ったらすぐ積立」という仕組みにすることで、使い込みを防げます。

ステップ5:設定完了後は「放置」する

設定が終わったら、前述の通り「見ない」ことが重要です。次に確認するのは半年後、1年後で十分です。

よくある質問——積立投資の疑問に答える

Q. 今から始めるのは「高値掴み」になりませんか?

株式市場は長期的に右肩上がりであるため、「今が高値かどうか」を当てるのは専門家にも不可能です。「今が高い」と感じる時期は、10年後に振り返ると「実は割安だった」ことが多い。積立投資の強みは、「今が高いか安いか」という判断をしなくて済む点にあります。

Q. 積立する銘柄を複数に分散した方がいいですか?

オルカン1本で十分です。オルカンはすでに50カ国・3,000銘柄以上に分散されています。「オルカン+S&P500」「オルカン+日本株」などと分散したくなる気持ちはわかりますが、管理が複雑になるだけで分散効果はほとんど増えません。シンプルさも、長期継続の重要な要素です。

Q. 相場が暴落した時、一時的に現金を多めに持つべきですか?

端的に言えば、やめた方がいいです。「暴落したから現金化して、底値で買い直す」という戦略は、底値を予測できるという前提に立っています。しかし底値は後からしかわかりません。暴落時に売って下落を避けようとした人の多くが、その後の回復局面で乗り遅れ、かえって損失を拡大しています。

Q. 60歳になったらどうすればいいですか?

積立を止めて、必要な分だけ少しずつ売却します(定率または定額売却)。60歳で一括売却する必要はありません。100歳まで生きる可能性がある時代、60歳時点でも残りの運用期間は30〜40年あります。退職後も一部は積立または保有を継続するのが合理的です。

著者

岸 泰裕(きし やすひろ)

早稲田大学大学院金融工学MBA取得。元外資系バンカー。財務・IR・ガバナンス・ESG専門。著書3冊、累計調達額480億円、明治大学リバティアカデミー講師(2014年〜)。

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