iDeCoの受け取り方——一時金・年金・併用でどう変わる退職所得控除と税金

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、掛金が全額所得控除になるという入り口のメリットばかりが注目されがちですが、実は「受け取るとき」の設計を誤ると、思っていたより税金が引かれてしまうことがあります。特に2026年1月からは、退職金とiDeCoの受け取り時期に関するルールが変更されており、これまでの一般的な情報のままでは、想定していた節税効果が得られないケースが出てきています。この記事では、iDeCoの受け取り方の選択肢と、退職所得控除・公的年金等控除との関係を整理します。

iDeCoの受け取り方には3つの選択肢がある

iDeCoの受け取り方には、大きく分けて3つの選択肢があります。積み立てた資産を一括で受け取る「一時金」、年金のように分割して受け取る「年金」、そしてこの2つを組み合わせる「併用」です。どの方法を選ぶかによって、適用される税制上の控除が異なり、手取り額に無視できない差が生まれます。

受給を開始できる年齢は、原則として60歳から75歳の間で選択できます。ただし、iDeCoの通算加入者等期間が10年に満たない場合は、60歳時点では受け取れず、加入期間に応じて受給開始可能年齢が段階的に61歳から65歳まで繰り下がる仕組みになっています。60歳以降に初めてiDeCoに加入した方は、加入から5年を経過した時点で受給が可能になります。まずはこの受給開始年齢の仕組みを理解したうえで、次に「どう受け取るか」を考える必要があります。

一時金で受け取る場合——退職所得控除が使える

iDeCoを一時金として一括で受け取る場合、税務上は「退職所得」として扱われ、退職所得控除が適用されます。退職所得控除の額は、勤続年数(iDeCoの場合は掛金の拠出期間)20年以下であれば「40万円×拠出年数」(最低80万円)、20年を超える部分については「800万円+70万円×(拠出年数-20年)」という計算式で算出されます。

さらに退職所得は、控除後の金額をさらに2分の1にしてから課税対象とする仕組みになっており、税制上かなり優遇された扱いを受けます。この控除の大きさが、多くの方が「iDeCoは一時金で受け取るのがお得」と言われる理由です。

【2026年1月改正】退職金と一時金を両方受け取る場合の間隔ルールが変わった

ここが今回、特に注意していただきたいポイントです。会社の退職金とiDeCoの一時金を両方受け取る場合、受け取る時期が近いと、退職所得控除が重複して使えないよう調整される「間隔ルール」が設けられています。このルールが、2026年1月から変更されました。

従来は、iDeCoの一時金を先に受け取り、その後に会社の退職金を受け取る場合、両方の退職所得控除をフルに使うためには「5年」以上の間隔を空ける必要がありました。この間隔が、2026年1月から「10年」に延長されています。つまり、これまでは「60歳でiDeCoを一時金受け取り、65歳で退職金を受け取る」という設計で両方の控除をフルに使えていたケースが、改正後は10年の間隔(例えば60歳と70歳)を空けなければ、退職所得控除が調整され、税負担が増える可能性があります。

なお、逆のパターン、つまり会社の退職金を先に受け取り、その後にiDeCoの一時金を受け取る場合の間隔ルール(19年ルールと呼ばれるもの、実質的には20年以上の間隔が必要)については、2026年の改正でも変更されていません。先に退職金を受け取る予定がある方は、この点を混同しないよう注意してください。

この改正は、早期にiDeCoの受け取りを開始し、その後に60代前半〜半ばで退職金を受け取るという、これまで比較的よく紹介されてきた節税プランに直接影響します。ご自身の退職金の受け取り予定時期とiDeCoの受給時期を、必ず見直すことをおすすめします。

具体的な計算例で見る退職所得控除の効果

数字で見ると、退職所得控除の大きさがより実感できます。仮にiDeCoを20年間拠出し、その一時金として受け取る場合、退職所得控除額は「40万円×20年=800万円」になります。この場合、受け取ったiDeCoの一時金が800万円以内であれば、税務上の退職所得はゼロとなり、課税されません。

拠出期間が25年であれば、控除額は「800万円+70万円×(25年-20年)=1,150万円」に拡大します。仮に受け取る一時金が1,300万円だった場合、控除後の金額は「1,300万円-1,150万円=150万円」となり、さらにこれを2分の1にした75万円が課税対象の退職所得になります。この75万円に対して所得税・住民税の税率を適用して税額を計算する、という流れです。控除の枠内に収まっていれば無税、超えた部分もさらに2分の1に圧縮されるという二重の優遇があることが分かります。

年金で受け取る場合——公的年金等控除が使える

iDeCoを年金形式で分割して受け取る場合は、税務上「雑所得(公的年金等)」として扱われ、公的年金等控除が適用されます。この場合、老齢基礎年金・老齢厚生年金など、他の公的年金と合算した金額に対して控除が計算され、その合算後の金額に応じて所得税・住民税が課税されます。

公的年金等控除にも一定の非課税枠がありますが、他の公的年金と合算されるため、既に十分な年金収入がある方がiDeCoも年金形式で受け取ると、控除枠を使い切ってしまい、iDeCo部分に対する実質的な節税効果が薄まることがあります。逆に、公的年金の受給開始前や、公的年金の額がそれほど多くない期間に合わせてiDeCoの年金受け取りを設計すれば、控除枠を有効に活用できる可能性があります。

併用という選択肢——控除枠を使い切る発想

一時金と年金を組み合わせる「併用」という受け取り方もあります。多くの金融機関では、iDeCo資産の一部を一時金として受け取り、残りを年金として分割受け取りする設定が可能です。この方法のメリットは、退職所得控除の枠と公的年金等控除の枠、両方をバランスよく活用できる点にあります。

例えば、退職所得控除の枠を超える部分のiDeCo資産がある場合、その超過分をそのまま一時金で受け取ると、控除の効かない部分に課税されてしまいます。この超過が見込まれる場合は、一部を年金形式に振り分けることで、公的年金等控除の枠を使い、トータルの税負担を抑えられる可能性があります。どちらか一方に決め打ちするのではなく、自分の退職金・公的年金の受給予定額を踏まえたシミュレーションをしたうえで、配分を検討する価値があります。

受け取り方は途中で変更できるのか

iDeCoの受け取り方は、原則として受給の請求を行う際に選択します。一時金として全額を受け取ってしまった後で、「やはり年金で受け取ればよかった」と思っても、その資産はすでに受給済みのため変更はできません。一方、年金形式で受給を開始した後、途中から残りの資産を一時金でまとめて受け取れるかどうかは、加入している金融機関(運営管理機関)の商品性によって異なります。受給を開始する前に、選択できる受け取り方のパターンを、自分が利用している金融機関のウェブサイトやコールセンターで確認しておくことをおすすめします。

また、iDeCoは60歳以降であれば、必ずしもすぐに受給を開始する必要はありません。運用を継続しながら、75歳になるまでの間で受給開始のタイミングを選べます。退職金の受給時期が定まっていない場合や、間隔ルールとの兼ね合いで受給時期を調整したい場合は、あえて受給開始を遅らせるという選択肢も検討に値します。

実務上、いつから準備すべきか

私が財務の実務で数字を扱ってきた経験から言えば、こうした受け取り方の設計は、受給開始が目前に迫ってから慌てて考えるのではなく、退職金の受給時期がある程度見えてくる50代のうちから、シミュレーションを始めておくことをおすすめします。会社の退職金制度の内容(受給予定額・受給可能時期)と、iDeCoの資産残高・拠出期間を照らし合わせ、どちらを先に受け取るか、間隔をどれだけ空けるかによって、手取り額がどう変わるかを試算しておくと、受給開始年齢が近づいたときに落ち着いて判断できます。

会社によっては、退職金の受給時期をある程度柔軟に選べる制度(選択定年制度など)を採用しているところもあります。こうした制度がある場合は、iDeCoとの間隔を意識して退職金の受給時期を調整できる余地があるかもしれません。人事・総務部門に確認してみる価値があります。

小規模企業共済・企業型DCを併用している場合の注意点

自営業者や中小企業の経営者の中には、iDeCoに加えて小規模企業共済に加入している方もいます。小規模企業共済の共済金も、一時金で受け取る場合は退職所得として扱われるため、iDeCoの一時金や会社の退職金と同じ枠組みで間隔ルールの調整対象になります。複数の退職所得の受け取りを予定している場合は、それぞれの受給時期を一覧にして、間隔ルールに抵触しないかを確認しておく必要があります。

また、会社員であっても、iDeCoとは別に企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入しているケースがあります。企業型DCの資産も、受け取り方によってはiDeCoと同様に退職所得控除の対象となるため、同じ枠組みでの調整が必要です。複数の年金制度に加入している方は、それぞれの制度の受給ルールを個別に確認したうえで、全体の受給スケジュールを設計することをおすすめします。

まとめ——「一時金が得」という単純な話ではなくなった

iDeCoの受け取り方は、一時金・年金・併用のどれが絶対的に有利ということはなく、退職金の有無や受給予定時期、公的年金の見込み額によって最適な選択が変わります。特に2026年1月の改正で、iDeCoの一時金を先に受け取り退職金を後から受け取る場合の間隔ルールが5年から10年に延長されたことで、これまで紹介されてきた受け取り方の「定番プラン」が通用しなくなったケースが出てきています。ご自身の退職金制度の内容を確認したうえで、受給時期の設計を見直すことをおすすめします。

よくある質問

Q1. iDeCoと退職金、どちらを先に受け取る方が有利ですか?

A. 一概には言えません。退職金の受給予定時期・金額、iDeCoの拠出期間・資産額によって最適な順序は異なります。2026年1月の改正でiDeCoを先に受け取るパターンの間隔要件が10年に延長されたため、退職金の受給時期が10年以内に迫っている場合は、以前ほど有利にならない可能性があります。個別のシミュレーションをおすすめします。

Q2. 会社に退職金制度がない場合、間隔ルールは気にしなくてよいですか?

A. 会社の退職金制度がなく、iDeCoの一時金以外に退職所得となる収入がない場合は、間隔ルールによる調整の影響を受けません。ただし、他社での勤務経験がある方や、別途企業型確定拠出年金・小規模企業共済などに加入している場合は、それらとの間隔も考慮する必要があります。


※本記事は一般的な制度説明であり、個別の税額計算を保証するものではありません。実際の受け取り方の判断にあたっては、税理士または最寄りの税務署にご確認ください。

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著者プロフィール

岸 泰裕|早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了(金融工学MBA)。外資系金融機関を経て、上場企業で財務部長・財務責任者を歴任。480億円のシンジケートローン組成、R&IのA-格付取得を主導し、東証グロース市場への上場(2025年3月)に財務・IR担当として関与。現・イグニションポイント株式会社 財務担当マネージャー。明治大学リバティアカデミー講師。著書3冊。近著『日本株「配当×株主優待」で生活費消し込み投資』(ART NEXT)。詳しい経歴はプロフィールをご覧ください。

著者

岸 泰裕(きし やすひろ)

早稲田大学大学院金融工学MBA取得。元外資系バンカー。財務・IR・ガバナンス・ESG専門。著書3冊、累計調達額480億円、明治大学リバティアカデミー講師(2014年〜)。

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