複利のデメリットとは——「時間を味方にする」の裏側にあるリスク

「複利 デメリット」と検索する方は、これまで散々「複利は資産形成の魔法」と聞かされてきて、その裏に何かあるはずだと感じ始めた方だと思います。その感覚は正しいです。複利は、資産を積み立てていく局面では確かに強い味方になりますが、万能ではありません。特に見過ごされがちなのが、資産を「増やす時期」と「取り崩す時期」で、複利の働き方がまったく違うという点です。

結論から言えば、複利のデメリットは大きく分けて二つあります。一つは、以前の記事でも触れた「元本割れしている間は複利が働かない」という基本的な性質。もう一つは、あまり知られていない「取り崩しを始めるタイミングによって、資産の寿命が大きく変わってしまう」というリスクです。この記事では、特に後者を中心に整理します。

おさらい——複利は「増え続ける」局面でしか効かない

複利とは、利益が利益を生む仕組みです。株価や投資信託の基準価額が上昇を続けている間は、この仕組みが働き、資産は加速度的に増えていきます。しかし、含み損を抱えている間は、そもそも「利益が利益を生む」という前提自体が成立しません。複利は、時間をかければ自動的に資産を増やしてくれる魔法の装置ではなく、プラスの局面が続いて初めて力を発揮する仕組みだということは、まず押さえておく必要があります。

見落とされがちなデメリット——取り崩し期の「順序リスク」

資産形成の世界では、「収益率配列リスク(シーケンス・オブ・リターン・リスク)」と呼ばれる考え方があります。これは、長期的に見た平均リターンが同じであっても、いつ暴落が起きるかによって、資産の寿命が大きく変わってしまうという現象です。

たとえば、退職後に資産を取り崩しながら生活する場合を考えてみます。取り崩しを始めた直後に大きな暴落が来ると、資産が目減りしたところからさらにお金を引き出すことになるため、資産の減り方が加速します。一方、同じ暴落が取り崩しの終盤に来た場合は、それまでに資産が育っている分、影響は相対的に小さくなります。平均のリターンが同じでも、暴落が来るタイミング一つで、最終的な資産の残り方がまったく違ってくるのです。

これは、積み立てている局面ではあまり意識する必要のないリスクです。むしろ積み立て期の暴落は、安く買い増せるチャンスとして働きます。しかし取り崩しが始まると、複利という同じ仕組みが、今度は不利な方向に働きうるということです。大和総研などの分析でも、このリスクへの対応策として、毎月一定の金額を引き出す「定額取り崩し」ではなく、資産残高の一定割合を引き出す「定率取り崩し」が挙げられています。定率であれば、資産が目減りしている局面では引き出す金額も自動的に減るため、暴落直後に資産を大きく削り込んでしまう事態を避けやすくなります。

複利への過信がリスク管理を鈍らせる

もう一つ、数字には表れにくいデメリットとして、「複利だから長期で見れば大丈夫」という安心感が、かえってリスク管理を怠らせてしまうことがあります。私は明治大学の講座で、複利の仕組みを説明する際、必ずこの点もあわせて伝えるようにしています。複利効果を正しく理解することと、「複利だから何もしなくていい」と考えることは、まったく別の話です。取り崩しが視野に入ってくる年代になったら、積み立て期とは異なるリスク管理が必要になる、という前提の切り替えが求められます。

まとめ——複利は道具であり、魔法ではない

複利には、資産を積み立てる局面での強さと、取り崩す局面での弱さという、二つの異なる顔があります。元本割れの間は働かないという基本的な性質に加えて、取り崩しを始めるタイミング次第で資産の寿命が変わってしまう順序リスクは、資産形成期にはあまり意識されない、見えにくいデメリットです。複利を「放っておけば増えるもの」として過信するのではなく、自分がいまどちらの局面にいるのかを意識し、取り崩しが近づいてきたら引き出し方そのものを見直す。この視点の切り替えが、複利という道具を最後まで正しく使いこなすための鍵になります。

著者

岸 泰裕(きし やすひろ)

早稲田大学大学院金融工学MBA取得。元外資系バンカー。財務・IR・ガバナンス・ESG専門。著書3冊、累計調達額480億円、明治大学リバティアカデミー講師(2014年〜)。

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