「新NISA デメリットしかない」。この言葉で検索してこのページにたどり着いた方は、おそらく制度そのものを疑っているというより、「みんなが良いと言っているものに、自分だけ乗り遅れているのではないか」という不安と、「本当に良いことずくめなのだろうか」という警戒心を、半分ずつ抱えているのではないでしょうか。
結論から言えば、新NISAに欠陥と呼べる要素は確かにあります。ただしそれは制度の設計ミスではなく、「非課税というメリットと引き換えに、いくつかの自由を手放す制度」であることを知らないまま使うと不利益になる、という種類のものです。私は明治大学リバティアカデミーで金融リテラシーの講座を担当していますが、受講者から「新NISAはデメリットしかないと聞いたので不安になった」という質問を何度も受けてきました。その都度お伝えしているのは、デメリットの中身を具体的に知れば、それが致命的なものかどうかは自分で判断できる、ということです。
この記事では、新NISAで実際に指摘されているデメリットを一つずつ正直に取り上げたうえで、それでも「デメリットしかない」とまでは言えない理由を、金融庁・国税庁の公表情報に基づいて整理します。
そもそも新NISAはどんな制度か
デメリットの話に入る前に、制度の骨格だけ確認しておきます(より詳しい制度解説はNISAの基本——非課税制度を正しく使い切るための全知識もあわせてご覧ください)。2024年から始まった新NISAは、年間投資額の上限が「つみたて投資枠」120万円、「成長投資枠」240万円で、両方を併用すると年間360万円まで投資できます。生涯を通じて非課税で保有できる上限額(非課税保有限度額)は1,800万円で、このうち成長投資枠として使えるのは1,200万円までです。
そして、旧NISA(つみたてNISA・一般NISA)と大きく変わったのが、非課税で保有できる期間が無期限になった点と、制度そのものが恒久化された点です。旧制度は「いつか終わる時限措置」でしたが、新NISAはそうではありません。ここまではよく知られている話で、多くの人が新NISAを勧める根拠にしている部分でもあります。問題は、この先です。
指摘されている代表的なデメリット
損益通算・繰越控除ができない
これが、実務の現場でもっとも見落とされがちな制約です。通常、株式や投資信託を売却して損失が出た場合、特定口座であれば他の利益と相殺する「損益通算」や、相殺しきれない損失を最大3年間繰り越す「繰越控除」が使えます。
ところが、NISA口座で保有していた商品を売却して損失が出た場合、国税庁の案内(No.1535 NISA制度)にある通り、その損失は税務上「ないもの」とみなされます。つまり、特定口座や一般口座で得た利益と相殺することはできませんし、繰り越して翌年以降の利益と相殺することもできません。日本証券業協会のFAQでも同様に、譲渡損失は税務上ないものとみなされ、損益通算・繰越控除のいずれもできないと明記されています。
利益が出ている分には関係のない話ですが、含み損を抱えたまま慌てて売却してしまうと、この制約だけが一方的に効いてきます。「非課税だから税制上は必ず得をする」という理解は、正確ではありません。
非課税枠の再利用は「その場では」できない
新NISAでは、保有商品を売却すると、その商品を取得したときの金額(簿価)の分だけ非課税投資枠が復活し、再利用できるようになっています。これ自体は旧NISAにはなかった改善点です。ただし復活のタイミングには注意が必要で、金融庁の案内によれば、枠が復活するのは売却した「翌年以降」です。今年売って、今年のうちに別の銘柄を買い直す、というような機動的な使い方はできません。
短期的な売買を繰り返して非課税枠を使い倒そうとする人ほど、この時間差につまずきます。新NISAは基本的に、長く持ち続ける前提で設計された制度だと理解しておいた方が実態に近いです。
「非課税枠の埋め競争」という落とし穴
これは制度そのものの欠陥というより、制度の使われ方の問題です。生涯非課税枠1,800万円という上限が明確に示されたことで、SNSなどでは「早く枠を埋め切った人が勝ち」という空気が生まれやすくなりました。私自身、講座の質疑応答で「早く枠を使い切らないと損だと聞いたのですが、今すぐまとまった資金を入れるべきでしょうか」という相談を受けることがあります。
その感覚自体は理解できます。ただ、非課税枠を早く埋めることと、無理のある金額を一括で投じることは、本来別の話です。生活防衛資金を削ってまで枠を埋めようとしたり、本来のリスク許容度を超えた商品を選んでしまったりすると、非課税というメリットよりも、値下がりで受けるダメージの方が大きくなりかねません。枠には期限がありません。埋め切るまでの期間を急ぐ理由は、実はそれほど多くないのです。
元本が保証されるわけではない
当たり前のようで、意外と見落とされている点です。新NISAは利益に対する税金がかからないというだけの制度であり、値下がりリスクそのものを消してくれるわけではありません。非課税という言葉の響きが強いためか、「新NISAを使えば安全」という誤解を持ったまま始めてしまう方に、これまで何度も出会ってきました。非課税かどうかと、値下がりするかどうかは、まったく別の軸で考える必要があります。どのような商品なら値下がりリスクを抑えられるかは、NISAで「買ってはいけない商品」——警告する5つのパターンで具体的に整理しています。
それでも「デメリットしかない」とは言えない理由
ここまで読むと、新NISAには弱点が多いように感じるかもしれません。ただ、これらのデメリットは、特定口座で同じ投資をした場合と比較して初めて意味を持つ相対的なものです。
特定口座であれば損益通算はできますが、その代わり利益には約20%の税金がかかり続けます。仮に長期の運用で数百万円の利益が出た場合、その約2割が税金として引かれるのと、丸ごと手元に残るのとでは、最終的な手取りに大きな差が生まれます。損益通算という「保険」を失う代わりに、利益が出続けた場合のリターンをまるごと確保できる。これが新NISAという制度の実質的な取引条件です。損益通算ができないことだけを取り出して「デメリットしかない」と言うのは、この裏側にあるメリットを見ずに、片方の事実だけを見ている状態だと言えます。
もちろん、短期売買を繰り返す投資スタイルの人にとっては、枠の復活が翌年になる制約や、損失を通算できない制約は、相性の悪い制度に見えるはずです。その場合は新NISAを主戦場にせず、特定口座と使い分けるという判断も十分に合理的です。制度に合わない使い方をして「デメリットしかない」と結論づけるのではなく、自分の投資スタイルと制度の設計が噛み合っているかどうかを、先に確認しておく方が建設的です。
新NISAを使いこなすための現実的なスタンス
ここまでの内容を整理すると、新NISAのデメリットとされているものの多くは、「短期で売買を繰り返す」「非課税枠を急いで埋めようとする」という使い方をしたときに顕在化する制約です。逆に言えば、長期で保有し、無理のない金額を淡々と積み立てていくという、制度が本来想定している使い方をしている限り、これらのデメリットが実際の痛手になる場面は限られます。
非課税保有限度額の1,800万円も、制度が恒久化されたことも、急いで結論を出すための材料ではなく、時間をかけて向き合うための材料として用意されています。「デメリットしかない」という言葉に不安を感じて検索した方には、まずデメリットの中身を具体的に知ったうえで、それが自分の投資スタイルにとって致命的かどうかを、落ち着いて判断していただきたいと思います。制度を疑う目は大切ですが、疑ったまま何も始めないことも、長期的に見れば一つの機会損失になり得ます。
著者
岸 泰裕(きし やすひろ)
早稲田大学大学院金融工学MBA取得。元外資系バンカー。財務・IR・ガバナンス・ESG専門。著書3冊、累計調達額480億円、明治大学リバティアカデミー講師(2014年〜)。