会社の「格付」はこうして上がる——A-格付・480億円調達の現場から

資金調達というと、多くの経営者や財務担当者がまず思い浮かべるのは「いくら借りられるか」という金額の話だと思います。ただ、実際に金融機関や格付機関と向き合う現場にいると、金額そのものよりも「この会社を信頼してよいか」という判断のプロセスの方が、調達の成否を大きく左右しているという実感があります。

私は事業会社の財務部門で、総額480億円のシンジケートローン組成に関わり、格付投資情報センター(R&I)から発行体格付「A-(安定的)」を取得した経験があります。当初、証券会社が示していた見通しはBBB格でした。この記事では、この経験をもとに、格付けがどのような理屈で決まり、なぜBBBからA-まで引き上げることができたのかを具体的に振り返りながら、大企業の話にとどまらない「金融機関との向き合い方」の本質について整理します。

格付けとは何を評価しているのか

格付けとは、R&IやJCR(日本格付研究所)といった格付機関が、企業や政府が発行する社債・借入について、利払いや償還をきちんと果たせるかという「債務履行能力」を評価し、記号化したものです。AAAを最上位として、AA、A、BBBといったアルファベットの組み合わせで表され、同じアルファベットの中でも「+」「-」で細かい差がつけられます。格付けが高いほど信用リスクが低いとみなされ、社債やローンの調達金利は下がる傾向にあります。逆に格付けが一段階下がるだけで、大型の資金調達では利払い負担が無視できない規模で増えることも珍しくありません。

かつての格付けは、売上高や利益率、有利子負債の水準といった財務数値がほぼすべてでした。しかし近年は、ESG(環境・社会・ガバナンス)に代表される非財務情報も、格付けを左右する要素として重視されるようになっています。財務数値だけを見れば同じような会社でも、ガバナンス体制やサステナビリティへの取り組みの説明の仕方次第で、格付機関の評価が変わってくる時代になったということです。

BBBからA-へ——非財務情報を使った対話

私が関わった案件では、当初、証券会社が示していた格付けの見通しはBBBでした。財務数値だけを見れば、それが妥当な水準だったと思います。ここから格付けを引き上げるために取り組んだのが、非財務情報を使った銀行・格付機関との対話でした。

具体的には、中期経営計画やサステナビリティ計画の策定プロジェクトに財務側の立場で関わり、事業のリスク管理体制やガバナンス強化の取り組みを、数値だけでなく、方針や体制として言語化して説明することに力を入れました。財務の健全性は前提として当然示したうえで、「この会社は将来にわたって計画的に事業を運営できる体制を持っている」という部分を、格付機関に伝わる形に組み立て直したということです。この対話を積み重ねた結果、最終的にR&Iから発行体格付「A-(安定的)」を取得することができました。当初の見通しから一段階以上の引き上げです。

この経験を通じて実感したのは、格付けは過去の財務実績の通信簿ではなく、将来に向けた説明責任をどれだけ果たせるかという、対話の産物でもあるということです。数字は変えられなくても、その数字の背景にある取り組みをどう伝えるかは、会社側の努力で変えられる部分が大きいのです。

格付けが上がると、何が変わるのか

格付けが上がることの直接的な効果は、調達コストの低下です。社債の発行金利や借入金利は、格付けと連動して決まる部分が大きく、格付けが一段階上がるだけで、大型の資金調達では年間の利払い負担が数千万円単位で変わってくることもあります。480億円という規模のシンジケートローンであれば、その差はなおさら大きくなります。

もう一つ見落とされがちなのが、金融機関側の見る目が変わるという効果です。格付けが上がった会社は、個別の銀行がその都度審査をやり直さなくても、一定の信用力があると見なしてもらいやすくなります。結果として、新たな調達先を開拓する際の交渉が、以前よりスムーズに進むようになります。格付けは、金融機関との関係を一件一件ゼロから築き直す手間を減らしてくれる、いわば「信用の共通言語」のような役割も果たしています。

中小企業・スタートアップには関係のない話か

ここまでの話は、格付機関から格付けを取得できるだけの規模の会社を前提にしています。多くの中小企業やスタートアップにとって、R&IやJCRから格付けを取得すること自体は、現実的な選択肢ではないかもしれません(銀行融資や補助金・出資まで含めた資金調達の全体像はスタートアップ・ベンチャー・中小企業の資金調達 完全ガイドで整理しています)。

ただ、ここで働いているロジックそのものは、規模を問わず共通しています。中小企業やスタートアップが銀行から融資を受ける際、銀行は内部で独自の「債務者区分」という格付けに近い評価を行っています。この評価も、決算書の数字だけでなく、事業計画の説明の仕方や、経営者が自社のリスクをどれだけ具体的に把握し、伝えられているかによって、印象が大きく変わります。具体的にどこを見直せば評価が変わるのかは、銀行格付けの上げ方——決算前90日でできる7つの実務手順で手順に落とし込んでいます。

私が財務の現場で繰り返し感じてきたのは、金融機関が知りたいのは「今の数字」だけではなく、「この会社は今後どうなっていくつもりなのか、それをきちんと説明できる経営体制を持っているか」という点だということです。これは480億円の調達でも、数千万円の融資でも、本質的には同じ問いです。決算書の数字を良くすることはすぐにはできなくても、事業の見通しや管理体制をどう説明するかは、規模の大小にかかわらず、今日からでも磨いていける部分です。

まとめ——資金調達は、信頼をどう設計するかという仕事

格付けやシンジケートローンという言葉は、一見すると大企業だけの世界の話に聞こえるかもしれません。しかし、その裏側にあるのは、金融機関に「この会社になら貸せる」と思ってもらうための、地道な情報開示と対話の積み重ねです。財務数値を整えることはもちろん前提として重要ですが、それだけでは足りません。数字の背景にある考え方や体制を、相手に伝わる形で説明できるかどうかが、調達の規模を問わず、資金調達の成否を分けています。目の前の融資交渉や資金繰りに追われていると忘れがちですが、資金調達とは結局のところ、金融機関との信頼関係をどう設計するかという、地道な仕事の積み重ねなのだと思います。

著者

岸 泰裕(きし やすひろ)

早稲田大学大学院金融工学MBA取得。元外資系バンカー。財務・IR・ガバナンス・ESG専門。著書3冊、累計調達額480億円、明治大学リバティアカデミー講師(2014年〜)。

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