「複利効果はない」は本当か——投資信託・個別株のケースで検証する

「複利効果 ない」という言葉で検索する方が増えているのは、SNSやYouTubeで「投資に複利なんて存在しない」と主張する識者の発信が広がっているためだと思います。これまで「複利は資産形成の魔法」という説明を信じて積立を続けてきた方ほど、この主張を目にすると不安になるはずです。自分がやってきたことは、根拠のないものだったのだろうか、と。

結論から言えば、「複利効果がない」という指摘は、半分正しく、半分は言葉の定義のすれ違いです。株式や投資信託の値上がり益に、預金金利のような厳密な意味での複利計算式をそのまま当てはめるのは、数学的には正確ではありません。しかしそこから「だから積立投資には意味がない」と結論づけるのは、論理の飛躍です。私は明治大学の講座で利率計算や割引現在価値の基礎を教えていますが、この論点は毎回、受講者の反応が大きく分かれるところです。この記事では、複利という言葉の正しい範囲を整理したうえで、「複利効果はいつから実感できるのか」という疑問にも数字で答えます。

そもそも複利とは、どういう計算か

複利とは、元本に発生した利息を、次の期間の元本に組み入れて再び利息を計算する仕組みです。数式で表すと、元本×(1+年利率)の年数乗、という形になります。たとえば100万円を年利5%の複利で30年間運用した場合、100万円×1.05の30乗で、およそ432万円になります。同じ条件を単利(利息を元本に組み入れず、毎年同じ利息額を受け取り続ける)で計算すると、100万円×(1+0.05×30)で250万円ですから、複利と単利では30年間で180万円以上の差がつきます。これが「複利は時間を味方につけると強い」と言われる理由です。

この計算式が厳密に成立するのは、預金の金利や、債券のクーポンを再投資する場合のように、「毎年、確定した利率」が約束されている金融商品に限られます。ここまでは、複利効果を肯定する側の主張として、間違いなく正しい話です(複利の基本的な仕組みは複利の魔法——時間を味方にする「雪だるま」の仕組みでより丁寧に解説しています)。

「株式投資に複利効果はない」という主張の中身

問題は、この複利の計算式を、株式や投資信託の値上がり益にそのまま当てはめられるかどうかです。「複利効果はない」と主張する識者が指摘しているのは、まさにこの点です。株価は毎年決まった率で上昇するわけではなく、日々の需給によってランダムに動きます。ある年は20%上昇し、翌年は10%下落する、というように、リターンの年率は常に変動しています。つまり、値上がり益だけを見た場合、「元本×(1+一定の利率)の年数乗」という複利の計算式は、厳密には成り立ちません。買った時の価格と売った時の価格の差がリターンのすべてであり、そこに「利息が利息を生む」という複利特有の構造は存在しない、という指摘は、数学的には筋が通っています。

さらに言えば、元本割れをしている期間中は、そもそも「利益が利益を生む」という複利の前提自体が働きません。含み損を抱えている間、複利効果を実感できないのは当然のことです。「複利効果 実感 いつから」という疑問への答えは、まず投資している資産が含み益に転じ、その利益を再投資し続けて初めて、複利的な効果が積み上がり始める、ということになります。短期間で実感できるものではなく、数年から十数年単位で見えてくるものだと理解しておくべきです。

それでも「複利は無意味」とは言えない理由

ここまでの話を聞くと、「では積立投資に複利の効果を期待するのは間違いなのか」と思われるかもしれません。ただ、ここには見落としてはいけない要素があります。

一つは、配当金や投資信託の分配金を再投資する場合です。配当や分配金を使って追加の口数を買い増していけば、翌年以降はその増えた口数分だけ受け取れる配当・分配金も増えていきます。これは、値上がり益とは別の経路で、明確に「利益が利益を生む」構造になっており、複利という言葉が本来指している仕組みにかなり近いものです。無配当の個別株の値上がり益に複利の計算式は当てはまらなくても、配当再投資型の投資信託や高配当株の再投資には、複利的な効果がしっかり働きます。

もう一つは、たとえ厳密な意味での複利計算式が成り立たなくても、長期にわたって資産を積み立て続けることのメリットそのものは、別の理由でも支持されるという点です。長期間にわたり時間を分散して投資を続けることで、一時的な価格変動の影響を平均化できますし、経済成長に伴って市場全体が右肩上がりに推移してきたという長期的な傾向も、無視できません。「複利計算式が厳密には成立しない」という指摘と、「長期の積立投資は有効な資産形成手段である」という結論は、実は矛盾せずに両立します。積立投資そのものについて回る別の誤解については、ドルコスト平均法の「誤解」——積立投資は最強ではないと言う理由もあわせてご覧ください。

まとめ——言葉の定義より、続けられるかどうか

「複利効果はない」という主張は、値上がり益に対して複利という言葉を数学的に厳密に使うなら、その通りです。株価は毎年一定率で増えるものではありませんし、元本割れの期間は複利の前提自体が成立しません。ただ、配当・分配金の再投資には明確に複利的な構造が働きますし、複利という言葉の厳密さとは別に、長期で資産形成を続けることの意義そのものは揺らぎません。「複利は魔法だ」と過信するのも、「複利なんて嘘だ」と切り捨てるのも、どちらも極端です。大事なのは、自分が保有している商品がどちらのタイプなのかを理解したうえで、含み損の時期も含めて、淡々と積立を続けられるかどうかだと思います。

著者

岸 泰裕(きし やすひろ)

早稲田大学大学院金融工学MBA取得。元外資系バンカー。財務・IR・ガバナンス・ESG専門。著書3冊、累計調達額480億円、明治大学リバティアカデミー講師(2014年〜)。

▶ プロフィール詳細 ▶ 講演・取材のお問い合わせ ▶ 著書・実績一覧

最近の記事