毎月の保険料も、通信費と同じように「配当で軽くできる」支出の一つです。新著『日本株「配当×株主優待」で生活費消し込み投資』(ART NEXT)でも触れていますが、生命保険や医療保険の保険料は、多くの家庭で家計の固定費の中でも大きな割合を占めています。本記事では、保険料という支出項目に配当を充てる考え方を解説します。全体像は配当×株主優待で生活費を「消し込む」もあわせてご覧ください。
保険料を消し込む前に、まず見直すべきこと
保険料を配当でカバーするという発想の前に、そもそもその保険が本当に必要かどうかを確認することが先決です。生命保険は本当に必要かで詳しく解説していますが、日本は公的医療保険制度が手厚く、民間の医療保険で重複してカバーしている保障も少なくありません。保険料を配当で消し込むという考え方は、あくまで「見直した結果、必要だと判断した保険」に対して適用すべきものです。不要な保険料を配当で肩代わりしようとするのは、本末転倒だという点を最初に押さえておいてください。
なぜ保険料は「消し込みにくい」支出なのか
通信費とは異なり、保険料には消し込み投資と相性が悪い面もあります。保険会社(生命保険会社)は、株主優待を実施していない、あるいは限定的にしか実施していないケースが多いためです。生命保険会社は相互会社形態(契約者が実質的な出資者)を採用している場合もあり、株式会社形態で上場している保険会社であっても、優待よりも配当による株主還元を基本としていることが一般的です。したがって、保険料の消し込みは「優待」ではなく「配当」を軸に考えるのが現実的なアプローチになります。
保険関連株を選ぶときに見るべき指標
保険業は、他の業種とは財務指標の見方が大きく異なります。私が財務の実務で重視してきた視点は次の3つです。
- ソルベンシー・マージン比率:保険会社特有の健全性指標で、大規模な保険金支払いにも耐えられる財務的な余力を示します。200%を下回ると監督当局から早期是正措置の対象になり得る、健全性の目安です。
- 運用資産の構成:保険会社は保険料を株式や債券で運用しています。運用資産に占める国内株式の比率が高い企業は、株式市場の変動の影響を受けやすい傾向があります。
- 新契約の伸び・解約率:新規契約が伸び、解約率が低い企業は、事業基盤が安定していると評価できます。決算説明資料で開示されていることが多い数値です。
一般的な企業の財務健全性の見方は決算書で見抜く「減配しない企業」で解説していますが、保険業についてはソルベンシー・マージン比率という業界特有の指標を、必ずあわせて確認してください。
損害保険会社という選択肢
生命保険会社より、株主優待や配当方針の面で個人投資家に馴染みやすいのは、損害保険会社(自動車保険や火災保険を扱う企業)です。損害保険会社は株式会社形態での上場が一般的で、安定した配当方針を掲げている企業も見られます。自動車保険や火災保険、あるいは医療保険を損害保険会社の関連商品で契約している場合、その支払保険料を、同じグループの配当でカバーするという発想も選択肢の一つになります。
ミニケーススタディ——保険料を配当で補う考え方
架空の例で、保険料への配当活用をイメージしていただきます(数値は説明のための一例です)。家族の生命保険・医療保険・火災保険を合わせた年間保険料が20万円だとします。配当利回りを税引前3%程度と仮定すると、単純計算で約670万円の投資元本があれば、この保険料相当額を配当で受け止められる計算になります。これは通信費や食費と比べて金額が大きい支出項目のため、一足飛びに全額をカバーしようとせず、まず保険の見直しで不要な保障を削り、残った保険料に対して数年かけて投資元本を積み上げていくのが現実的です。
共済という選択肢との比較
保険料の見直しを検討する際、県民共済やJA共済といった共済制度も比較対象になります。共済は営利を目的としない相互扶助の仕組みで、保険料(掛金)が割安な傾向がある一方、保障内容は民間保険より限定的な場合があります。共済に加入している場合、消し込み投資の対象となる「保険料」は民間保険会社への支払いに限られ、共済の掛金は原則として消し込みの対象外になります。保障内容と保険料のバランスを見直す中で、共済への切り替えによって支出そのものを圧縮するという選択肢も、あわせて検討する価値があります。
保険見直しと消し込み投資、どちらを先にすべきか
結論から言えば、順番は「保険の見直し」が先です。不要な保障を削れば、そもそも消し込む対象となる保険料自体が小さくなります。通信費を配当で消し込むで解説した「支出を減らす工夫」と「配当で相殺する工夫」を両方行うという考え方は、保険料についても同じように当てはまります。見直しで圧縮した後の保険料を目標に、投資元本を逆算する。この順序を守ることで、無理のない計画が立てられます。
実践ステップ
- 現在加入している保険を洗い出し、本当に必要な保障かどうかを見直す
- 見直し後の年間保険料を算出する
- 生命保険会社ではなく、損害保険会社を中心に、財務健全性(ソルベンシー・マージン比率など)を確認する
- 新NISAの成長投資枠を使い、無理のない金額から投資を開始する
- 決算発表のたびに、配当方針に変更がないか確認する
まとめ
保険料は金額が大きく、消し込みにも時間がかかる支出項目です。だからこそ、まず不要な保障を削って対象額そのものを圧縮し、そのうえで損害保険会社を中心とした配当による消し込みを、数年単位の計画で進めてください。優待ではなく配当が軸になる点が、他の支出項目とは異なる保険料ならではの特徴です。
よくある質問
Q1. 生命保険会社の株は、投資対象として避けるべきですか?
A. 避けるべきというわけではありませんが、優待による消し込みという観点では期待しにくい業種です。配当方針とソルベンシー・マージン比率などの財務健全性を確認したうえで、配当を軸に判断してください。
Q2. ソルベンシー・マージン比率はどこで確認できますか?
A. 保険会社の決算説明資料や、金融庁が公表しているディスクロージャー資料で確認できます。多くの保険会社は自社のIRページでも開示しています。
※本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
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著者プロフィール
岸 泰裕|早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了(金融工学MBA)。外資系金融機関を経て、上場企業で財務部長・財務責任者を歴任。480億円のシンジケートローン組成、R&IのA-格付取得を主導し、東証グロース市場への上場(2025年3月)に財務・IR担当として関与。現・イグニションポイント株式会社 財務担当マネージャー。明治大学リバティアカデミー講師。著書3冊。近著『日本株「配当×株主優待」で生活費消し込み投資』(ART NEXT)。詳しい経歴はプロフィールをご覧ください。
著者
岸 泰裕(きし やすひろ)
早稲田大学大学院金融工学MBA取得。元外資系バンカー。財務・IR・ガバナンス・ESG専門。著書3冊、累計調達額480億円、明治大学リバティアカデミー講師(2014年〜)。