執筆者:岸 泰裕(きし・やすひろ)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了(金融工学MBA)。日興シティグループ証券をはじめ外資系金融でキャリアを積み、上場企業の財務・IRを歴任しました。現在は事業会社で財務を担うかたわら、明治大学リバティアカデミー講師、社外取締役・顧問を務めています。著書に『はじめての米国株入門』『新NISAではじめる米国株』(ともに成美堂出版)ほか。→ 詳しいプロフィールはこちら
「SpaceXのIPOに当選するには?」「倍率はどれくらい?」「日本から買う方法は?」——この記事では、これらの疑問に正直に答えながら、私が外資系投資銀行で学んだIPO投資の本質をお伝えしたいと思います。
結論から言えば、IPOで買うことより「セカンダリーを狙う」方が賢い選択です。その理由を、数字と実例で説明します。
SpaceX IPOの現状(2026年6月時点)
SpaceXは2026年現在、まだIPOしていません。ただし市場では複数のシナリオが語られています。
- シナリオA:Starlink部門の分社化IPO——衛星インターネット事業「Starlink」を切り出して上場させる案。現在最も有力とされています。
- シナリオB:SpaceX本体のIPO——評価額約3,500億ドル(約53兆円)でそのまま上場。2027〜2028年が目安との見方もあります。
- シナリオC:上場しない——イーロン・マスクは過去に「上場させない」と発言。可能性はゼロではありません。
現状、SpaceXへの投資は「SPCX」というETFを通じた間接投資が唯一の現実的な手段です。
IPO当選確率と倍率——正直な数字
SpaceXがIPOした場合、日本の個人投資家が「IPO当選」できる確率はどれくらいでしょうか。私の見立てでは、事実上ゼロに近いと考えた方がよいでしょう。
米国の大型テックIPOでは、機関投資家(年金基金、ヘッジファンド、大手運用会社)が全体の80〜90%の株式を割り当てられます。日本の証券会社に回る枠は全体の1〜3%程度に過ぎず、倍率は500倍以上になる可能性があります。
日本から購入する現実的な方法
① IPO申し込み(最も競争が激しい)
SBI証券・楽天証券・マネックス証券などで申し込みが可能になる見込みですが、当選確率は極めて低いといえます。複数の証券会社に口座を持ち全てで申し込む「複数口座作戦」が有効です。
② 上場後の通常購入(セカンダリー)——私が最も推奨する方法
IPO後に普通に株式市場で買う方法です。テック系IPOでは上場後3〜6ヶ月の「ロックアップ解除」後に株価が下押しするパターンが繰り返されてきました。急いで初値で買わず、この波を待つのが賢明です。
③ ETF(SPCX)を通じた間接投資(現時点で唯一の方法)
現在取れる唯一の手段が、SPCXというETFです。SpaceXへの投資比率が高く設定されており、日本の証券会社でも取り扱いがあります。
SpaceXを投資家として評価するための3つの視点
① 収益の多様性
収益源はロケット打ち上げとStarlinkの2本柱です。軍・政府契約も多く安定性がありますが、設備投資が莫大で利益率は低くなっています。
② Starlinkの成長性
加入者数は急増中です。社会インフラとしての役割も担っており、長期的な成長余地は大きいといえます。
③ イーロン・マスクリスク
テスラ同様、マスク氏の言動が株価に大きく影響する可能性があります。政治的発言、他事業との利益相反——これらは無視できないリスクです。
今から準備できること
上場タイミングが読めないからこそ、今できることを着実にやっておく価値があります。
まず口座です。SBI証券・楽天証券・マネックス証券など、米国株IPOを取り扱う証券会社に複数口座を持っておくと、仮に申し込みが始まったとき動きやすくなります。「上場が決まってから開こう」では出遅れてしまいます。
SPCXは、今すぐ買うかどうかより先に中身を把握しておくことが大事です。構成銘柄を確認し、SpaceX以外の宇宙関連企業の比率がどの程度かを理解した上で、自分のポートフォリオに合うかを判断してください。
そしてS-1の公開を待つ間に、財務諸表の読み方を身につけておくこと。S-1には売上高・純利益・将来予測が詳細に開示されます。その数字を自分の頭で解釈できる状態にしておくかどうかが、上場後の判断の質を決めます。
「夢の企業に投資したい」という気持ちはよく分かります。ですが夢と投資判断は別物です。冷静な分析の上で判断してください。S-1の公開を待ちながら、続報をお伝えしていきます。
よくある質問(FAQ)
Q. SpaceXのIPOはいつですか?
A. 2026年6月現在、SpaceX本体のIPO時期は未定です。最も有力なシナリオはStarlink部門の分社化IPOで、2027〜2028年との見方もありますが、確定情報はありません。イーロン・マスク氏は過去に「SpaceXは上場させない」と発言したこともあり、シナリオCとして上場しない可能性も残ります。
Q. 日本からSpaceX株を買う方法はありますか?
A. 現時点では、SPCX(Procure Space ETF)を通じた間接投資が唯一の現実的な手段です。SBI証券・楽天証券・マネックス証券などで購入できます。SpaceXが上場した場合は、米国株として日本の証券会社でも購入可能になる見込みです。
Q. SpaceX IPOの当選倍率はどれくらいですか?
A. 仮にIPOが実現した場合、日本の個人投資家への割当は全体の1〜3%程度と想定されます。応募数が数十万件に達すれば、倍率は数百倍に達する可能性があります。NTTドコモやソフトバンクのIPO倍率が数十倍だったことを考えると、SpaceXはそれを大きく上回ることが予想されます。
Q. SPCXとはどんなETFですか?
A. SPCXはProcure Space ETFの略で、宇宙関連企業に投資するETFです。SpaceXへの投資比率が高く、宇宙インフラ・衛星通信分野への分散投資が可能です。ただしSpaceXが非上場のため、直接株式を保有するわけではありません。経費率や他の保有銘柄の影響も受ける点を理解した上で活用してください。
Q. IPOで買うよりセカンダリーを狙った方がよい理由は?
A. IPO価格は発行体(上場する会社)にとって有利な価格設定がなされるため、個人投資家にとってお買い得とは限りません。また上場後3〜6ヶ月の「ロックアップ解除」時期に、上場前から株を持っていた投資家や従業員が売却できるようになり、株価が一時的に下押しするケースが多く見られます。この局面を待って購入する戦略が、長期投資においては合理的です。
SpaceX関連の最新動向を追うためのポイント
SpaceXへの投資を検討するなら、以下の情報源を定期的にチェックすることをお勧めします。
- SEC EDGAR:S-1提出時(IPO申請書)は必ずここで全文確認できます
- SpaceX公式リリース:打ち上げ実績・Starlink加入者数の定期発表
- NASAの契約情報:政府・軍事受注の規模感を把握できます
- イーロン・マスク氏のX(旧Twitter):直接的な情報発信が多い(ただし株価への影響も大きいため注意が必要です)
この記事のまとめ——投資家が今すぐ取るべき行動
SpaceX IPOをめぐる状況は、2026年6月時点でも流動的です。しかし「いつ上場するか」がわからなくても、今から準備できることはあります。
まず、SPCX ETFの仕組みと構成銘柄を把握しておきましょう。SPCXはSpaceX本体の株式を直接保有しているわけではなく、宇宙産業全体への分散投資商品です。SpaceX上場の恩恵を直接受けるわけではないことを理解した上で、保有する価値があるかを判断してください。
次に、OpenAIとAnthropicのIPOスケジュールを注視しましょう。この2社はS-1を既に提出しており、2026年秋以降の上場が見込まれます。SpaceXより先に「AIインフラ株」を手掛けるチャンスが来る可能性があります。
最後に、ロックアップ解除のカレンダーを作っておくことを強くおすすめします。上場日から90〜180日後に株価が下落しやすい傾向があるテック系IPOでは、このタイミングを事前に把握しているだけで、エントリーの判断が大きく変わります。
「上場したら買おう」ではなく、「上場前から準備しておく」が、IPO投資で結果を出す人の共通点です。
Starlinkという事業の本質——なぜSpaceXの企業価値を押し上げているのか
SpaceXのIPOを考える上で、Starlinkを理解することは避けて通れません。むしろ「SpaceXへの投資=Starlinkへの投資」と言っても過言ではないほど、Starlinkはこの会社の企業価値の中核を担っています。
Starlinkは、低軌道衛星を利用した衛星インターネットサービスです。地上のインターネット回線が届かない農村部・離島・船舶・航空機にも高速通信を提供できます。現在、世界100カ国以上でサービスを展開しており、加入者数は急増中です。
ビジネスモデルとしての強さは「参入障壁の高さ」にあります。数千基の衛星を打ち上げるコストと技術力は、簡単に模倣できるものではありません。AmazonのProject Kuiperなど競合が存在しますが、先行者優位はStarlinkが圧倒的です。さらに、軍事・政府用途での採用(ウクライナでの活用が広く報道されました)が、収益の安定性をさらに高めています。
投資家として注目すべき点は、SpaceXが仮に分社化するとしたら「Starlink部門」が最初の候補になる可能性が高いことです。ロケット事業(Falcon 9・Starship)は設備投資が莫大で利益率が低い一方、Starlinkは月額サブスクリプション型の安定収益が期待できます。IPOで市場に出す「商品」として、Starlinkは非常に整理しやすい事業体です。
SpaceX IPOの先例——過去の大型テックIPOから何を学ぶか
SpaceXのIPOを待つ間、過去の大型テックIPOを振り返ることで、判断の参考になる知見が得られます。
Uber(2019年上場)は上場初日から株価が下落し、ロックアップ解除後にさらに下落しました。しかしその後、事業が安定するにつれて株価は上場時を大幅に超えるレベルまで回復しています。Airbnb(2020年上場)は上場初日に公募価格の2倍以上まで急騰しましたが、その後半年で40%近く下落した局面がありました。Meta(旧Facebook、2012年上場)は上場後1年で株価が半値以下になりましたが、長期保有した投資家は10倍以上のリターンを得ています。
これらに共通するパターンがあります。大型テックIPOの上場直後は「期待値が最大に膨らんだ状態」であり、その後の調整が来やすいということです。しかし事業の実力が伴っている企業は、長期的には上場時の評価を正当化するかそれ以上に成長します。
SpaceXに当てはめれば、「上場初日に買う必要はない」「事業の実力を確認しながら、調整局面を待つ」という戦略が、過去の事例からは合理的に見えます。「夢の企業に乗り遅れたくない」という焦りが、高値掴みの最大の原因です。
重要なのは、SpaceXの上場が実現した際に「S-1を自分で読める状態にしておくこと」です。売上高・利益率・セグメント別の数字・リスク要因——これらをS-1から読み取れる準備が、IPO投資の本当の意味での「準備」です。
SpaceX投資に関する追加のQ&A
Q. SpaceX株(SPCX)は新NISAで買えますか?
現時点でSpaceXは未上場のため、新NISAで直接購入することはできません。将来上場し、米国市場に上場した普通株やSPCXのような関連ETFが日本の証券会社で取り扱われれば、新NISAの成長投資枠の対象になる可能性はあります。ただしIPO直後の個別株は値動きが大きく、長期・分散を前提とする新NISAの趣旨とは相性が良くない点には注意が必要です。あわせて新NISAの成長投資枠で何を買うべきかもご覧ください。
Q. SpaceXのバリュエーション(PSR)は割高ではありませんか?
報道ベースの想定時価総額を売上高で割ると、PSR(株価売上高倍率)はテック大型株の中でも高い水準になります。重要なのは「Starlinkの収益成長がその高い倍率を正当化できるか」です。私が外資系金融や上場企業の財務の現場で見てきた経験から言えば、夢のある企業ほど期待が価格に織り込まれ、成長が少しでも鈍ると大きく調整します。売上高・利益率・セグメント別の伸びをS-1で確認し、期待と実力の差を冷静に見極めることが、割高・割安を判断する出発点です。
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著者プロフィール
岸 泰裕|早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了(金融工学MBA)。外資系金融機関を経て、上場企業で財務部長・財務責任者を歴任。480億円のシンジケートローン組成、R&IのA-格付取得を主導し、東証グロース市場への上場(2025年3月)に財務・IR担当として関与。現・イグニションポイント株式会社 財務担当マネージャー。明治大学リバティアカデミー講師。著書3冊。近著『日本株「配当×株主優待」で生活費消し込み投資』(ART NEXT)。詳しい経歴はプロフィールをご覧ください。
著者
岸 泰裕(きし やすひろ)
早稲田大学大学院金融工学MBA取得。元外資系バンカー。財務・IR・ガバナンス・ESG専門。著書3冊、累計調達額480億円、明治大学リバティアカデミー講師(2014年〜)。