【この記事の結論】
日本では「親の資産を子どもが把握していない」ことが原因で、相続・認知症・急逝の際に深刻な問題が起きるケースが急増しています。「家族でお金の話をするのは恥ずかしい」という文化が、最終的に家族全員を不幸にします。親が70歳を超える前に、「家族会議」を開くことを強く推奨します。この記事では切り出し方から確認すべき項目まで、具体的に解説します。
岸泰裕です。
参議院議員事務所の秘書を務めていた頃、議員が厚生労働委員会で「認知症と資産凍結」について質問を作成するお手伝いをしました。認知症の発症後、本人が管理していた銀行口座や不動産が「凍結」され、家族が生活費を引き出せなくなる——これは他人事ではなく、日本で急増している問題です。
1. 「親の資産を知らない」が招く3つの悲劇
- 認知症による資産凍結:本人が判断能力を失うと、成年後見制度の申立てなしには預金を動かせない。申立てには数ヶ月かかり、費用も発生する。
- 急逝後の相続手続きの混乱:どこに何の資産があるかわからず、手続きに何年もかかるケースがある。
- 詐欺被害の発覚遅れ:「オレオレ詐欺」や投資詐欺に遭っていても、子どもが知らなければ発覚が遅れる。
2. 「家族会議」の切り出し方——3ステップ
ステップ1:きっかけを作る(自分事から始める)
「私も新NISAを始めたんだけど、もしものときのことを考えるようになって……」という形で、自分の資産管理の話から始めると親への圧力が低くなります。
ステップ2:「心配だから」ではなく「準備したいから」
「財産を狙っている」と思われないよう、「もし認知症になったとき、私たちが困らないための準備をしたい」という文脈で話します。
ステップ3:一度で全部聞こうとしない
1回の会話で全資産を把握しようとすると拒絶される可能性があります。「預金はどの銀行を使っているか」「生命保険はどこか」という単発の質問から始めて、徐々に把握します。
3. 確認すべき項目チェックリスト
- □ 預金・貯金:金融機関名、おおよその金額
- □ 生命保険・医療保険:保険会社名、証券番号、受取人
- □ 不動産:所在地、登記の名義
- □ 株式・投資信託:証券会社名、口座番号
- □ 年金:国民年金・厚生年金の受取額
- □ 借金・ローン:残債があるか
- □ 遺言書の有無:公正証書遺言か自筆か
4. 家族信託・成年後見制度の活用
親がまだ判断能力のある間に「家族信託」を設定しておくことで、認知症発症後も子どもが資産を管理できます。成年後見制度は発症後に申立てが必要で手続きが重い一方、家族信託は事前の契約なので柔軟性が高い。弁護士や司法書士への相談が必要ですが、数十万円の費用で数百万〜数千万円の資産凍結リスクを防げます。
まとめ
「親とお金の話をする」のは日本では文化的なハードルがあります。しかし、その会話を先延ばしにした代償は、認知症発症後・急逝後に全員が支払うことになります。今、親が元気なうちに、自分の資産管理の話から始めてみてください。それが家族全員を守る最も現実的な方法です。
認知症「前」に整備すべき法的・財務的手続き
親が元気なうちに整備しておくべき手続きには、主に以下のものがあります。実際に相談を受ける中で、「知らなかった」という方が多いため、具体的にお伝えします。
- 任意後見契約:認知症になる前に「将来的に後見人をお願いする人」と契約を結ぶ制度。法定後見(認知症後に家庭裁判所が選任)より本人の意思が反映されやすい
- 家族信託(民事信託):親の財産を子供や信頼できる人が「受託者」として管理する仕組み。認知症後でも財産の運用・処分が可能になる。不動産の売却も事前に設定できる
- エンディングノート(法的効力なし):法的効力はないが、本人の希望(医療・葬儀・財産配分)を家族が把握するために有効。公正証書遺言と組み合わせることで実効性が高まる
「親の資産状況の把握」という最初のハードル
多くの家庭で最初のハードルは「親がどれだけの資産を持っているか知らない」という状況です。日本では「お金の話は家族内でもタブー」という文化が根強く、親も自分の財産を子供に話したがりません。
しかし、認知症発症後に「通帳はどこにあるか分からない」「どの銀行に口座があるか不明」という状況になると、財産の凍結・相続手続きが極めて複雑になります。
切り口は「相続税対策を一緒に考えたい」「資産を守るために専門家に相談したい」など、前向きな理由から始めるのがコツです。「もしものため」という言い方は、親の心理的抵抗を高めます。「家族で一緒に将来を設計する」という姿勢が、老後のお金の会話を始める最もスムーズなアプローチです。
参考・公式資料
著者
岸 泰裕(きし やすひろ)
早稲田大学大学院金融工学MBA取得。元外資系バンカー。財務・IR・ガバナンス・ESG専門。著書3冊、累計調達額480億円、明治大学リバティアカデミー講師(2014年〜)。