【この記事の結論】 財務部長(CFOに準じるポジション)の仕事は「お金を集めること」だけではありません。資金調達・キャッシュ管理・格付対応・内部統制・IR——これらを統合的に設計・運営し、経営陣の意思決定を財務面から支える役割です。複数の上場・非上場企業での財務責任者経験から、この職種の本質を解説します。
「財務の責任者を採用したいのですが、どんな人を探せばいいですか?」
この質問を企業経営者から受けるとき、私はまず「今の会社に一番必要な財務機能は何ですか?」と聞き返します。
財務は非常に広い領域をカバーします。資金調達・キャッシュ管理・財務会計・管理会計・税務・IR・内部統制・格付対応・M&Aファイナンス——これらすべてを一人でカバーできる人材は存在せず、何を優先するかで「求める人物像」が変わります。
1. 私が経験した財務の「4つのフェーズ」
フェーズ①:大手証券・金融持株会社(日興シティホールディングス・日興コーディアル証券)
有価証券報告書・決算短信・オフサイトモニタリング等の開示業務、連結会計・税務・J-SOX対応、システム導入プロジェクト(Oracle・Calypso)への参画が主な業務でした。
「規制・開示・内部統制」という財務の根幹を、大手金融機関の環境で学んだフェーズです。
フェーズ②:外資系銀行(スタンダードチャータード銀行東京支店)
Group Reportingチームにて、IFRS連結パッケージの作成・英規制当局へのCountry Exposure Report・AD Ratio(預貸率)・顧客別与信のモニタリングを担当しました。
「グローバルスタンダードの財務管理」と「外国語での業務遂行」を経験したフェーズです。国際会計基準(IFRS)の実務と、多国籍企業のグループ財務管理の仕組みを現場で習得しました。
フェーズ③:上場企業の財務部長(アルテリア・ネットワークス)
財務部長補佐および資金課長として、資金調達(480億円のシローン組成)・デットIR・格付取得(R&I A格)・証券化・セールス&リースバック・財務戦略策定・中期経営計画(財務面)の策定を担いました。
「実際の責任と権限を持って財務戦略を動かす」フェーズです。CFO直下のポジションとして、経営判断に直結する財務の意思決定に関与しました。
フェーズ④:上場準備企業の財務・IR(ミーク株式会社)
上場準備・内部統制・エクイティIR・デットIR・信用調査機関対応・内部監査室の兼務を担い、2025年3月21日の東証グロース市場上場を実現しました。
「ゼロから上場に至る財務体制を構築する」フェーズです。
2. 財務責任者として「最も重要だと感じた3つの能力」
① 「経営者の言語」で話す能力
財務の専門用語を経営陣・取締役会に伝えるだけでなく、「この資金調達は会社の成長戦略にとって何を意味するか」「このキャッシュフローの変化は3年後の事業展開にどう影響するか」——財務を経営の言語に翻訳する能力が最も重要です。
② 「社外との交渉」能力
銀行・格付機関・証券会社・監査法人・取引所——財務責任者は多くの外部ステークホルダーと交渉します。相手の論理を理解した上で、自社の利益を最大化する交渉を行う能力は、財務実務の核心です。
③ 「リスクの先読み」能力
財務リスク(金利リスク・流動性リスク・信用リスク)、事業リスク(売上変動・コスト構造の変化)、規制リスク(会計基準変更・税制改正)——これらを先読みして経営陣に警告を発し、対応策を準備する能力が、財務責任者の本質的な価値です。
まとめ:財務責任者は「経営の翻訳者」
財務責任者の最大の価値は「数字を正確に把握すること」ではなく「数字を使って経営の質を高めること」にあります。
顧問・社外取締役として、あるいはCFOサポートとして、企業の財務機能の構築・強化に貢献することが私の専門的な役割です。
財務顧問・CFOサポート・社外取締役のご相談はCONTACTページよりお問い合わせください。
著者:岸 泰裕|早稲田大学大学院ファイナンス研究科(金融工学MBA)修了。日興シティホールディングス・日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)・スタンダードチャータード銀行東京支店・アルテリア・ネットワークス・ミーク株式会社(東証グロース上場2025年3月)にて財務実務を経験。明治大学リバティアカデミー講師。著書2冊(成美堂出版)。