【この記事の結論】 複利とは「利益が利益を生む」雪だるま式の増殖メカニズムです。時間が長いほど、早く始めるほど、その効果は指数関数的に拡大します。資産形成において「複利を味方につけること」は、投資家に与えられた唯一の確実な武器です。
「複利は人類最大の発明だ」——アルベルト・アインシュタインがそう言ったとされる言葉があります(真偽は定かではありませんが)。しかし、この言葉が長年にわたって引用され続ける理由は、複利の力が本当に「発明」と呼ぶにふさわしいほど強力だからです。
明治大学の講義で最初に話すのは、必ずこの複利の話です。なぜなら、複利を直感的に理解していない人は、長期投資の意味を腹の底から理解できないからです。そして複利を理解していない人が、長期投資を続けることはできません。
本記事では、財務の専門家として複利の仕組みと、それが新NISAやインデックス投資にどう機能するかを、数字を使って解説します。
1. 単利と複利の違い——30年でどれだけ差がつくか
まず、単利と複利の違いを明確にします。
単利:元本にのみ利息がつく方式。 複利:元本に加え、すでについた利息にも次の利息がつく方式。
元本100万円、年率5%のケースで30年間比較します。
| 経過年数 | 単利 | 複利 |
|---|---|---|
| 10年後 | 150万円 | 163万円 |
| 20年後 | 200万円 | 265万円 |
| 30年後 | 250万円 | 432万円 |
単利では30年後に2.5倍。複利では約4.3倍。差額は182万円にもなります。元本100万円に対して、利息が利息を呼んだだけで182万円の差が生まれる。これが複利の本質です。
さらに重要なのは、複利曲線が時間の経過とともに急激に加速する点です。10年目より20年目、20年目より30年目の伸びが急峻になる。これが「指数関数的成長」の特性です。
2. 「72の法則」——元本が2倍になるまでの時間
複利を理解する上で極めて便利な経験則が「72の法則」です。
元本が2倍になるまでの年数 ≈ 72 ÷ 年利率(%)
例を示します。
- 年利1%の銀行預金:72 ÷ 1 = 72年
- 年利3%のバランス型ファンド:72 ÷ 3 = 24年
- 年利5%のインデックスファンド:72 ÷ 5 = 約14年
- 年利7%の株式投資:72 ÷ 7 = 約10年
現在の銀行の定期預金金利は年0.02〜0.1%程度です。72の法則に当てはめると、元本が2倍になるまでに720〜3,600年かかる計算になります。
一方、S&P500の過去長期平均リターン(インフレ調整後)は約7%前後と言われています。この利回りが維持されるなら、約10年で元本は2倍になる計算です。銀行預金と株式インデックスの差は、この「複利が機能する速度の差」に本質があります。
3. 複利が新NISAで最大限に機能する理由
通常の課税口座では、運用益に対して約20.315%の税金がかかります。この税金は、複利の敵です。
例えば、利益100万円に対して約20万円が税金で引かれると、次の年の元本(+利益)が20万円少ない状態で複利が計算されます。20年・30年という長期では、この差は非常に大きくなります。
新NISAの最大の価値のひとつはここにあります。運用益・配当がすべて非課税のため、**「利益が100%再投資されて複利が回り続ける」**状態が実現します。税引後の複利と税引前の複利では、30年後の資産に数百万円単位の差が生まれます。
4. 「始める年齢」が最大の変数である
複利で最も重要な変数は「利率」ではなく「時間」です。
25歳から月3万円を年率5%で40年積み立てた場合と、35歳から月3万円を年率5%で30年積み立てた場合を比較します。
- 25歳スタート(40年):総投資額1,440万円 → 約4,560万円
- 35歳スタート(30年):総投資額1,080万円 → 約2,490万円
10年早く始めた人は、投資額が360万円多いにもかかわらず、最終資産は約2,070万円多い。この2,070万円の差の大半は、「10年余分に複利が機能した時間」が生み出したものです。
「もう少し余裕ができたら始めよう」という先送りは、複利の観点では極めて高いコストを払っています。1日でも早く始めることが、最も合理的な判断です。
まとめ:複利は「待つ人」への最大の報酬
複利は、短期的には地味に見えます。しかし20年・30年という時間スケールで見ると、その破壊的な威力が明らかになります。複利を最大限に機能させるための条件は3つだけです。
- 早く始める(時間が最大の変数)
- 低コストの金融商品を選ぶ(信託報酬がリターンを毎年確実に削る)
- 途中で止めない(複利を中断することが最大の損失)
新NISAというプラットフォームと、インデックスファンドという低コストの乗り物が揃っている今、あなたに必要なのは「始める決断」だけです。
FAQ
Q. 複利はすべての金融商品で機能しますか? A. 投資信託の「分配金再投資型」や株式の配当再投資など、利益が自動的に元本に組み込まれる設計の商品で最大限に機能します。定期的に分配金を受け取るタイプは複利効果が弱まります。
Q. 複利の計算式を教えてください。 A. 元本 × (1 + 年利率)^年数 で計算できます。100万円を年率5%で10年運用すると、100万円 × 1.05^10 ≈ 163万円になります。
Q. 積立投資でも複利は機能しますか? A. はい。毎月の積立額が投資信託の口数として積み上がり、その全口数に対して運用益が発生するため、複利効果は十分に機能します。
著者:岸 泰裕|早稲田大学大学院ファイナンス研究科(金融工学MBA)修了。日興シティホールディングス・スタンダードチャータード銀行にて財務実務を経験。明治大学リバティアカデミー講師。著書『新NISAではじめる米国株』『はじめての米国株入門』(成美堂出版)。