株価暴落時に「すべき行動」と「してはいけない行動」——元外資系バンカーが語る暴落の真実

【この記事の結論】 株価暴落時に個人投資家が取るべき行動は「何もしないこと」です。そして唯一してはいけない行動は「狼狽売り」です。暴落は資産を失う機会ではなく、長期投資家にとっては資産を安く買い増す絶好の機会です。この認識を腹の底から持てているかどうかが、10年後・20年後の資産を決定的に分けます。


2020年3月、コロナショックによって日経平均は1ヶ月で約30%下落しました。私は当時、その市場の混乱をリアルタイムで見ながら、明治大学の講義でこう話しました。「今、あなたが積立をやめたら、この講義を受けた意味がなくなります。」

外資系証券・銀行の財務部門で働いていた頃、相場の急変を何度も経験しました。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災と円高、2015年のチャイナショック。そのたびに多くの個人投資家が損失を確定させ、その後の回復と上昇を取り逃がしました。

本記事では、暴落時に何が起きるのか、そして本当に正しい行動は何かを解説します。


1. 暴落時に個人投資家が陥る「3つの罠」

罠①:恐怖に負けて売却する(狼狽売り)

暴落時、保有資産の評価額が急減する様子を毎日目にすることは、強烈な精神的苦痛を伴います。「これ以上下がる前に売ってしまおう」という衝動は、ごく自然な感情です。

しかし、この行動には致命的な問題があります。売却した時点で含み損が確定損に変わります。そして多くの場合、「もっと下がってから買い直そう」と思っていても、相場の底を正確に判断できず、気づけば大幅に回復した後の高値で買い戻すことになります。

財務理論における「プロスペクト理論」が示す通り、人間は「損失の痛み」を「同額の利益の喜び」の約2倍に感じます。この非対称性が、暴落時の非合理な行動を引き起こします。

罠②:情報過多による判断麻痺

暴落時、SNSやニュースは悲観的な情報で溢れます。「底はまだ下」「今回は過去と違う」「経済崩壊の始まり」——これらの言説が、さらなる恐怖を煽ります。

重要な視点を持ちましょう。過去の暴落を振り返ると、そのほぼすべてのケースで「今回は違う」「史上最悪になる」という予言がなされてきました。そして市場は、その後必ず(時に数年かかりながらも)回復・上昇しています。

過去の暴落と回復の歴史を知ることが、暴落時の精神的な支柱になります。

罠③:積立を停止する

暴落時に積立を停止することは、ドルコスト平均法が最も効果を発揮するタイミングを自ら放棄することです。価格が下落しているときこそ、同じ金額でより多くの口数が購入できます。積立を停止することは、バーゲンセールに行かないことと同義です。


2. 暴落時に「すべき行動」

では、暴落時に何をすべきか。答えはシンプルです。

① 積立を継続する(もしくは増額を検討する)

日々の株価チェックをやめ、積立設定を維持するだけです。できれば、生活費に余裕がある場合は積立額の一時的な増額も検討に値します。

② ポートフォリオを確認し、リバランスを検討する

大幅な下落によって当初の資産配分が崩れた場合(例:株式比率が下がりすぎた場合)、株式を買い増してリバランスすることは、合理的な行動です。これは「安いときに意識的に買い増す」ことを意味します。

③ 「なぜ自分がこの投資をしているか」を再確認する

投資の目的(老後資金・子どもの教育費・早期リタイア等)が変わっていないならば、それは投資戦略を変える理由にはなりません。暴落は「目的の変更」を意味しません。


3. 過去の暴落から学ぶ「回復の歴史」

過去の主要な暴落後のS&P500の回復を見ると、以下の通りです。

暴落最大下落率回復にかかった期間(概算)
ITバブル崩壊(2000〜2002)約49%約7年
リーマンショック(2008〜2009)約57%約5年
コロナショック(2020)約34%約5ヶ月

特にコロナショックは、わずか5ヶ月で最高値を更新しました。「今回は違う」という恐怖に負けて売却した人は、わずか5ヶ月後に深刻な後悔と向き合うことになりました。


まとめ:暴落は「試練」ではなく「踏み絵」

長期投資において、暴落は避けられません。しかし暴落は、投資家の「真の理解度」を測る踏み絵でもあります。

「インデックス積立は正しい」と頭で理解していても、評価額が30%減少した現実を前に同じ行動を取れるかどうか。その差が、10年後・20年後の資産の差として現れます。

暴落を乗り越えるための最大の武器は、「過去の暴落は必ず回復してきた」という歴史的事実への確固たる信頼です。


FAQ

Q. 暴落時に一括で買い増すのは有効ですか? A. 理論的には有効ですが、底がどこかは誰にもわかりません。余剰資金がある場合、「一括でなく数回に分けて買い増す」という折衷案が、心理的にも実務的にも有効です。

Q. 暴落時に「損切り」すべきケースはありますか? A. インデックスファンドの積立においては、損切りは基本的に推奨されません。一方、個別株で「企業の本質的な価値が毀損された」と判断できる場合(業績の構造的悪化・不正会計等)は、損切りも合理的な選択です。

Q. 暴落がいつ来るかは予測できますか? A. 不可能です。「暴落を予測して事前に売る」戦略をとるよりも、「暴落が来ても継続できる積立設計」を作ることの方が、長期的に優れた結果をもたらします。


著者:岸 泰裕|早稲田大学大学院ファイナンス研究科(金融工学MBA)修了。日興シティホールディングス・スタンダードチャータード銀行にて財務実務を経験。明治大学リバティアカデミー講師。著書『新NISAではじめる米国株』(成美堂出版)。

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