スクリーニングツールの使い方——銘柄探しを効率化する条件設定の基本

日本には上場企業だけで3,800社を超える数があります。この中から自分に合った銘柄を、一つひとつ決算書を開いて確認していくのは、現実的ではありません。そこで多くの投資家が使っているのが「スクリーニングツール」です。しかし、実際に使ってみると、条件をどう設定すればいいのか分からず、結局いつも同じような銘柄しか出てこない、という悩みをよく耳にします。この記事では、スクリーニングツールとは何か、そして条件設定の基本的な考え方を整理します。

スクリーニングツールとは何か

スクリーニングツールとは、PER・PBR・ROE・配当利回りといった財務指標に条件を設定し、その条件に合致する銘柄を上場企業全体から自動的に絞り込んでくれるツールです。証券会社の取引ツールに標準搭載されているものから、投資情報サイトが無料で提供しているもの、有料の高機能なものまで、さまざまな種類があります。

基本的な使い方は共通しています。「PERが15倍以下」「配当利回りが3%以上」といった条件を複数組み合わせて設定し、検索を実行すると、その条件をすべて満たす銘柄の一覧が表示されます。手作業では何日もかかる作業を、数秒で終わらせられるのがスクリーニングツールの最大の価値です。

なぜスクリーニングが必要なのか

私が財務の実務で企業分析に携わってきた経験からも言えることですが、優良な投資先を見つける作業の大部分は、「明らかに条件に合わない銘柄を、いかに早く除外できるか」にかかっています。3,800社すべてを丁寧に分析する時間は誰にもありません。スクリーニングは、この「除外作業」を機械的に肩代わりしてくれる、いわば一次選考のフィルターです。

ただし、ここで誤解してはいけないのは、スクリーニングは「買うべき銘柄を教えてくれるツール」ではなく、「見るべき候補を絞り込むツール」だということです。スクリーニングを通過した銘柄がそのまま投資対象になるわけではなく、そこから先、決算書や事業内容を実際に読み込む作業が必要になります。この点を混同すると、スクリーニング結果を鵜呑みにして、中身を精査しないまま投資判断をしてしまう危険があります。

条件設定の基本——絞り込みすぎない

スクリーニング初心者が陥りがちな失敗は、最初から条件を細かく設定しすぎることです。「PER10倍以下、PBR1倍以下、ROE15%以上、配当利回り4%以上、自己資本比率50%以上」というように、良さそうな条件を全部足し合わせると、条件を満たす銘柄がほとんどゼロになってしまいます。すべての指標で優等生な企業は、そもそも市場でそう多く存在しないためです。

実務的な進め方としては、まず2〜3個の主要な条件で大きく絞り込み、そこから業種や個別の事情を見ながら手作業で候補を絞っていく方が現実的です。条件を厳しくしすぎて候補がゼロになるより、少し緩めの条件で50〜100銘柄程度をリストアップし、そこから実際に中身を見て判断する、という2段階のプロセスをおすすめします。

よく使われる指標のカテゴリ

スクリーニングで使う指標は、大きく4つのカテゴリに分けて考えると整理しやすくなります。

バリュエーション系(割安・割高を測る指標)には、PER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)があります。PERの基本的な考え方はPERとは何か?「何年で元が取れるか」で株の割安・割高を見抜く方法、PBRについてはPBRとは何か?「解散価値」から企業の割安・割高を見抜く方法で解説しています。この2つは、スクリーニングの入り口として最もよく使われる指標です。

収益性系(稼ぐ力を測る指標)には、ROE(自己資本利益率)や営業利益率があります。ROEの考え方はROEとは何か? 財務マネージャーが「本当に使える」企業分析指標を解説で解説していますが、割安なだけでなく、稼ぐ力のある企業を絞り込みたい場合に有効な指標です。

財務健全性系(潰れにくさを測る指標)には、自己資本比率や有利子負債比率があります。財務基盤が脆弱な企業を除外したい場合に使う条件です。

配当・株主還元系には、配当利回りや配当性向があります。配当を重視する投資スタイルであれば、この系統の指標を主軸に据えることになりますが、この使い方には落とし穴もあります。次の章で説明します。

業種によって「適正な水準」が違うことを忘れない

スクリーニングで条件を設定する際、多くの初心者が見落とすのが、指標の適正水準は業種によって大きく異なるという点です。例えば、IT・情報通信業のように将来の成長期待が織り込まれやすい業種では、PERが20〜30倍あっても「割高」とは限りません。一方、銀行業や電力・ガス業のように成長率が緩やかで安定した業種では、PERが10倍前後でも「標準的」なことが多く、同じ10倍でも業種によって意味合いが変わります。

そのため、全業種を一律の条件でスクリーニングすると、成長業種の優良企業がすべて除外されてしまったり、逆に低成長業種の平凡な企業ばかりが残ったりすることがあります。実務的には、まず業種を絞ってからスクリーニングをかける、あるいは「同業種内での相対評価」という視点を持って結果を見ることをおすすめします。証券会社のツールによっては、業種平均のPER・PBRと比較できる機能が用意されていることもあるため、活用すると精度が上がります。

グロース株狙いとバリュー株狙いでは、条件設定が正反対になる

スクリーニングの条件設定は、自分がどのような投資スタイルを取りたいかによって、根本的に変わります。将来の成長性に賭ける「グロース株」を探したい場合は、PER・PBRといった割安さを示す指標よりも、売上高成長率や営業利益成長率を重視した条件設定が中心になります。この場合、PERが高くても、成長率がそれを上回っていれば許容範囲と考えます。

一方、割安さを重視する「バリュー株」を探したい場合は、PER・PBRを低めに設定し、財務健全性(自己資本比率)を高めに設定するのが基本です。この2つのスタイルを混同して、「成長性も割安さも両方満たす銘柄」だけを探そうとすると、条件が矛盾してしまい、該当銘柄がほとんど出てこなくなります。自分がどちらのスタイルで投資したいのかを先に決めてから、条件設定に入ることが、遠回りに見えて効率的な進め方です。

配当利回りランキングの罠——高い数字だけを追いかけない

配当利回りでスクリーニングをかけると、上位に「配当利回り8%」「10%」といった、一見すると魅力的な銘柄が並ぶことがあります。しかし、こうした極端に高い利回りは、株価が業績悪化などを織り込んで下落した結果、配当利回りが見かけ上高くなっているだけ、というケースが少なくありません。この場合、実際には減配(配当を減らすこと)のリスクが高く、翌年には配当利回りが大きく低下してしまう可能性があります。スクリーニングツールの数字を鵜呑みにする危険性については配当利回りランキングの罠|スクリーニングツールの正しい使い方で詳しく解説していますので、配当銘柄を探す際は必ずあわせて確認してください。

条件設定の実例——段階的に絞り込む

具体的な手順の一例を示します。まず「PERが業界平均以下」「自己資本比率30%以上」という2つの条件で、明らかに割高・財務が脆弱な銘柄を除外します。この段階では、まだ数百銘柄が残っているはずです。

次に、業種を絞ります。自分が理解できる、あるいは興味を持てる業種に絞ることで、その後の個別分析がしやすくなります。よく知らない業種の銘柄を「数字が良いから」という理由だけで選ぶと、事業内容を正しく評価できず、思わぬリスクを見落とすことがあります。

最後に、ROEや売上高成長率といった収益性の条件を加え、候補を数十銘柄程度まで絞り込みます。ここまで来たら、あとは個別に決算資料や有価証券報告書を確認し、事業の中身を理解したうえで最終的な投資判断を行います。スクリーニングはあくまでここまでの「候補出し」の役割であり、最終判断の代わりにはならないという点を、繰り返し強調しておきます。

目的別・条件設定の具体例

実際にどのような条件を組み合わせればよいか、目的別の一例を示します。あくまで出発点としての目安であり、正解が一つに決まっているわけではない点にご留意ください。

安定配当を重視する場合:配当利回り2.5〜4%程度(極端に高い利回りは避ける)、配当性向50%以下(利益に対して無理のない配当水準か)、連続増配または安定配当の実績、自己資本比率40%以上。利回りの高さそのものより、「無理なく配当を出し続けられる財務体力があるか」を優先する組み合わせです。

割安株を重視する場合:PER10倍以下、PBR1倍以下、自己資本比率50%以上。株価が資産価値に対して割安な水準にあり、かつ財務が健全な企業に絞り込む組み合わせです。ここに「営業利益が黒字であること」という条件を加えると、いわゆる「万年割安株(業績不振で割安に放置されている銘柄)」をある程度除外できます。

成長株を重視する場合:売上高成長率10%以上、営業利益成長率10%以上、自己資本比率30%以上。割安さよりも成長の勢いを優先し、財務健全性は最低限のラインだけを条件に加える組み合わせです。

これらはあくまで出発点の目安であり、市場全体の水準(金利環境や相場の過熱感)によって、妥当な数値は変動します。同じ条件でも、市場全体が割高なときと割安なときでは、ヒットする銘柄数が大きく変わることも覚えておいてください。

無料ツールと有料ツールの違い

証券会社の取引ツールに標準搭載されているスクリーニング機能は、多くの場合無料で利用でき、基本的な条件設定であれば十分に実用的です。まずはこうした無料機能から始めることをおすすめします。

有料のスクリーニングツールは、より細かい条件設定や、独自の指標、過去のスクリーニング結果のバックテスト機能などを備えていることが多く、投資経験を積んで「自分なりの条件設定のパターン」が固まってきた段階で検討する価値が出てきます。最初から高機能な有料ツールに頼るより、まずは無料ツールで条件設定の勘所を掴むほうが、遠回りに見えて確実な近道です。

スクリーニング結果は「一度きり」で終わらせない

スクリーニングをかけて候補を見つけたら、そこで終わりにせず、定期的に同じ条件で再スクリーニングをかけ、結果の変化を追いかけることをおすすめします。決算発表のたびに指標は変動しますし、株価の変動によってPERやPBRも日々変わります。一度のスクリーニングで「良い銘柄リスト」を作って満足するのではなく、四半期ごとなど一定の頻度で条件を再実行し、リストに残り続けている銘柄と、外れていった銘柄を比較することで、その企業の実力がより見えてきます。

特に、業績が安定して同じ条件を満たし続ける銘柄は、一時的な数字の良さではなく、構造的に競争力のある企業である可能性が高いといえます。逆に、一度だけ条件を満たしてすぐに外れてしまう銘柄は、特殊要因による一時的な好業績だった可能性を疑ってみる価値があります。

スクリーニングツールを使う際の心構え

私が財務の実務で数字を扱ってきた経験から言えば、スクリーニングツールが示す数字は、あくまで「過去の決算に基づく静止画」に過ぎません。ROEが高い企業でも、その収益力が一時的な特殊要因によるものであれば、翌期には数字が大きく変わる可能性があります。逆に、現時点では平凡な指標でも、事業の構造が変わりつつある企業であれば、将来的に指標が改善していく可能性もあります。

スクリーニングは「今の姿」を切り取る道具であり、「これからどうなるか」までは教えてくれません。この限界を理解したうえで、スクリーニング結果を出発点として、事業の将来性を自分の頭で考える習慣を持つことが、スクリーニングツールを正しく使いこなすための最も重要な心構えです。

まとめ——スクリーニングは「一次選考」、最終判断は自分で

スクリーニングツールは、数千社ある上場企業の中から候補を効率的に絞り込むための強力な道具です。ただし、条件を厳しくしすぎない、配当利回りなど単一の指標の高さだけで判断しない、そして絞り込んだ後は必ず自分で事業内容を確認する、という3点を守らなければ、かえって不利な投資判断につながりかねません。スクリーニングは投資判断の「入り口」であって「出口」ではない、という位置づけを忘れずに活用してください。

よくある質問

Q1. スクリーニング条件はいくつくらいに絞るべきですか?

A. 最初は2〜3個の主要な条件から始めることをおすすめします。条件を増やしすぎると候補がゼロになりやすく、逆に何も学べなくなってしまいます。まず大まかに絞り込み、そこから業種や個別の事情を見ながら手作業で絞り込んでいく2段階のプロセスが実務的です。

Q2. スクリーニング結果の上位銘柄をそのまま買っても大丈夫ですか?

A. おすすめしません。スクリーニングはあくまで候補出しの一次選考です。特に配当利回りなど単一の指標が極端に高い銘柄は、株価下落による見かけ上の高利回りである可能性があり、決算書や事業内容を確認しないまま投資するのはリスクが高い判断です。


※本記事は特定のスクリーニングツールや銘柄を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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著者プロフィール

岸 泰裕|早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了(金融工学MBA)。外資系金融機関を経て、上場企業で財務部長・財務責任者を歴任。480億円のシンジケートローン組成、R&IのA-格付取得を主導し、東証グロース市場への上場(2025年3月)に財務・IR担当として関与。現・イグニションポイント株式会社 財務担当マネージャー。明治大学リバティアカデミー講師。著書3冊。近著『日本株「配当×株主優待」で生活費消し込み投資』(ART NEXT)。詳しい経歴はプロフィールをご覧ください。

著者

岸 泰裕(きし やすひろ)

早稲田大学大学院金融工学MBA取得。元外資系バンカー。財務・IR・ガバナンス・ESG専門。著書3冊、累計調達額480億円、明治大学リバティアカデミー講師(2014年〜)。

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