生命保険は本当に必要か? 元外資系バンカーが「保険の正体」を暴く

「生命保険に入っていないと不安」という感覚は多くの方が持っています。しかし「本当に今の保険が必要か」と問われると、明確に答えられない方も多い。保険は「入ること」より「必要な場合にだけ入ること」が正解です。この記事で、生命保険の正しい考え方を整理します。

生命保険の基本的な役割——「自分では解決できないリスクに備える」

生命保険(および保険全般)の本質は「自分の資産では賄えないほどの経済的損失が発生した時に補填する仕組み」です。

保険が必要なのは「発生した時の経済的損害が甚大で、かつ発生確率は低いリスク」です。

  • 若くして死亡する → 残された家族が生活できなくなる
  • 重大な病気・怪我で長期入院 → 収入がなくなり医療費がかさむ
  • 火事で家が全焼 → 家・家財が全て失われる

これらは「自己貯蓄で賄うには金額が大きすぎる(または確率が読めない)リスク」であり、保険の出番です。

一方で「発生確率が高い(あるいは少額で賄える)リスク」は保険を使う必要はありません。「風邪を引いたら大変だから保険に入っておこう」は不合理です。

生命保険が「本当に必要な人」と「不要な人」

生命保険の必要性は「自分の死亡(または高度障害)によって生活に困る人がいるかどうか」で決まります。

生命保険が必要な人

  • 子どもがいる(特に子どもが小さい)夫婦
  • 配偶者の収入だけでは子育て・住宅ローン返済が困難な世帯
  • 専業主婦(夫)がいる家庭で、稼ぎ手が1人の場合

生命保険が不要または最小限で良い人

  • 独身で扶養家族がいない人(自分が死んでも困る人がいない)
  • 共働きで、どちらか一方が亡くなっても生活水準が維持できる夫婦
  • 子どもが成人・独立した後の親
  • 十分な資産がある人(保険なしで自己対応できる)

独身の20〜30代が高額の死亡保険に入っているケースをよく見ますが、「誰の生活を守るための保険か」という視点で考えると、多くの場合は不要か最小限でよい場合がほとんどです。

「掛け捨て」vs「貯蓄型(積立型)」——どちらを選ぶか

生命保険には大きく2種類あります。

掛け捨て保険(定期保険)

  • 保険期間(例:10年・20年)のみ保障。期間終了後に何も戻らない
  • 保険料が安い
  • 純粋な保障だけを提供

貯蓄型保険(終身保険・養老保険・変額保険等)

  • 死亡保障 + 満期時・解約時に「解約返戻金(積立部分)」が戻る
  • 保険料が高い
  • 「保険+貯蓄」の機能を持つ

「保険」と「貯蓄・投資」は切り離して考えることが合理的です。なぜかというと、貯蓄型保険の「積立部分」のリターンは、独立した投資(NISA・インデックスファンド)より低いからです。

例:月3万円の貯蓄型保険に加入する場合と、月2万円の掛け捨て保険 + 月1万円のNISA積立を比較すると、長期的には「掛け捨て+NISA」の方が最終的な手取り資産が大きくなる可能性が高い(保険会社のコスト・手数料がある分、投資としての効率が低下する)。

日本の公的保険——「まず公的保険で何がカバーされるか」を把握する

生命保険を考える前に「日本の公的保険制度で何がカバーされるか」を把握することが重要です。多くの方が公的保険の手厚さを過小評価しています。

遺族年金(死亡時)

会社員が死亡した場合、残された配偶者・子どもには「遺族厚生年金」が支給されます。年間受給額は故人の収入・加入期間によりますが、子ども2人の配偶者で年収400万円の会社員が40歳で死亡した場合、遺族年金は年間約150〜200万円が目安です(概算)。

高額療養費制度(病気・怪我時)

日本の健康保険には「高額療養費制度」があり、1ヶ月の自己負担限度額があります(収入に応じて月8〜15万円程度)。がん治療・長期入院でも自己負担は月10万円前後に抑えられます。高額な民間医療保険に入らなくても、自己負担は思ったほど大きくない場合があります。

傷病手当金(就労不能時)

会社員が病気・怪我で働けなくなった場合、最長1年6ヶ月間、標準報酬月額の2/3が傷病手当金として支給されます。月収30万円の場合、月20万円が最長1年6ヶ月支給されます。

これらの公的保障を把握した上で「公的保険でカバーできない不足部分を民間保険で補う」という考え方が合理的です。

死亡保険の「必要保障額」の計算

「どれくらいの死亡保障が必要か」を「必要保障額」として計算します。

必要保障額 = 遺族の生活費(残された年数分)+ 教育費 + 住宅ローン残高 – 遺族年金の受取総額 – 配偶者の収入 – 既存の資産

例:35歳男性(会社員、年収500万円)、配偶者(専業主婦)、子ども2人(5歳・3歳)の場合

  • 遺族の生活費(20年分・月25万円):6,000万円
  • 子ども2人の教育費(私立大学進学想定):各1,000万円×2 = 2,000万円
  • 住宅ローン残高(団体信用生命保険で消える場合は0円):0円
  • 遺族年金(子どもが小さい間、年180万円×15年):-2,700万円
  • 配偶者の潜在収入(パート等):-1,000万円
  • 既存資産(預金等):-500万円

必要保障額 ≈ 6,000 + 2,000 – 2,700 – 1,000 – 500 = 3,800万円

この3,800万円の死亡保障が必要。35歳男性の場合、3,800万円の定期保険(20年)の月額保険料は約5,000〜8,000円程度です。高額な貯蓄型保険よりはるかに安くカバーできます。

「不要な保険」を見直す——保険の棚卸し

多くの方が「よく分からないまま加入した保険」をいくつも持っています。定期的な保険の見直しで、不要な保険をやめることで家計を改善できます。

見直しのポイント

  • 掛け捨てvs積立:積立部分のある保険は解約返戻金を確認し、払込保険料との差を把握する
  • 保障内容の重複:職場の団体保険・配偶者の保険と保障内容が重複していないか
  • ライフステージの変化:子どもが成人独立した後も高額な生命保険に入り続けていないか
  • 不要な特約:がん特約・医療特約等、本当に必要か見直す

保険の解約・見直しは「解約返戻金が払込保険料を下回る」場合に躊躇する方が多いですが、「これ以上払い続けることで増える損失」を計算することが重要です。過去の支払いは取り戻せませんが、今後の保険料を投資に回す方が長期的に有利な場合があります。

まとめ——「本当に必要な保険だけを、最低限の保険料で」

保険に関する原則をまとめます。

  • 保険は「自分の資産では賄えない甚大な損失」に備えるもの
  • 扶養家族がいる場合は死亡保障が必要、独身は不要または最小限
  • 「保険+貯蓄」の貯蓄型保険より「掛け捨て保険+NISA積立」の方が合理的
  • 日本の公的保険(遺族年金・高額療養費・傷病手当金)を最大限活用する
  • ライフステージの変化に合わせて定期的に保険を見直す

保険代理店や保険会社の担当者のアドバイスは、「保険を売ること」が仕事の人によるものです。自分で基本的な知識を持ち、「本当に今の自分に必要な保障は何か」を判断できるようになることが、家計の最適化において重要です。

日本の医療費——高額療養費制度の詳細

「医療保険に入っていないと、がんになった時に破産する」というイメージを持つ方がいますが、日本の高額療養費制度を正しく理解すると、必ずしもそうではありません。

高額療養費制度では、1ヶ月(暦月)の医療費が一定額を超えた場合、超過分が後から払い戻されます。自己負担限度額は収入によって変わります(2024年時点)。

  • 年収〜約370万円:月約57,600円
  • 年収約370〜770万円:月約80,100円+α
  • 年収約770万円〜1,160万円:月約167,400円+α
  • 年収1,160万円超:月約252,600円+α

年収500万円の方の場合、どんなに高額な治療を受けても1ヶ月の自己負担は最大8〜9万円程度です。同じ月に複数の病院にかかった場合も合算できます(合算高額療養費)。さらに同一世帯で複数人が医療費を払っている場合も合算できます。

「がんの治療で数百万円かかる」という話も、高額療養費制度適用後の自己負担は月8〜9万円。1年間治療を続けても自己負担は100万円前後です(入院時の食費・差額ベッド代等は別)。これを多いと見るか少ないと見るかは個人差がありますが、「医療費で破産する」レベルではありません。

がん保険は必要か——冷静に考える

「がん保険は絶対必要」というイメージが根強くありますが、高額療養費制度を考慮すると、必要性は人によって異なります。

がん保険が「あると助かる」ケース:

  • 入院時の差額ベッド代(個室代)が高額になった場合(高額療養費の対象外)
  • 先進医療(保険適用外の治療)を受けたい場合(先進医療特約で対応可能)
  • 治療中の収入減少を補いたい場合(就業不能保険・所得補償保険の方が適切)

「がんになった時の一時金(100〜300万円)」を目的とするがん保険は、高額療養費制度で実質的なリスクが限定されている現代では、必要性が薄れています。同じお金をNISAで積立て「200〜300万円の自己準備」という考え方も一つの答えです。

就業不能保険(所得補償保険)——見落とされがちな重要保険

「死亡した時の保険」よりも「生きているが働けない時の保険」の方が、多くの方にとって重要です。

怪我・病気で長期間働けなくなるリスクは「死亡リスク」より統計的に高い。会社員の場合は傷病手当金(最長1年6ヶ月)がありますが、それ以降は収入が途絶えます。自営業・フリーランスには傷病手当金がありません。

就業不能保険(所得補償保険)の特徴:

  • 病気・怪我で働けなくなった場合に、月収の一部(50〜70%程度)を受け取れる
  • 会社員:傷病手当金終了後(1年6ヶ月後)から保険が始まる設計が多い
  • 自営業・フリーランス:傷病手当金がないため、病気初日から保険が機能する設計も

「死亡保険に加入しているが就業不能保険はない」という方は、保険の優先順位を見直すことをお勧めします。特に住宅ローンがある方・自営業の方は就業不能保険の検討価値が高い。

住宅ローンと「団体信用生命保険(団信)」

住宅ローンを組む際には「団体信用生命保険(団信)」に加入することが一般的(フラット35等は任意)です。団信は「ローン残高のある状態で債務者が死亡または高度障害になった場合、残債が免除される」保険です。

団信が付いている住宅ローンを組んでいる方は「住宅ローン残債分の生命保険」は既にカバーされています。生命保険の必要保障額を計算する際は「団信でカバーされる住宅ローン分は差し引く」必要があります。

「三大疾病特約付き団信」「就業不能保障付き団信」等の付帯保険もあります。これらを住宅ローンに付帯することで、別途保険に入る必要が低くなる場合があります(ただし金利が上乗せされるため、コストとのバランスを確認すること)。

保険料の節約——見直しで月1〜3万円を捻出する

多くの方が保険料として月3〜5万円以上払っています。適切な保険に絞ることで月1〜3万円の節約が可能で、その資金をNISA積立に回せます。

保険見直しのステップ:

  1. 現在加入している全保険の保険証書を一覧にする
  2. 各保険の「保障内容・保険料・解約返戻金」を確認する
  3. 公的保険(遺族年金・高額療養費・傷病手当金)でカバーできる部分を把握する
  4. 「必要な保障量」を計算する(前述の必要保障額の計算を参照)
  5. 必要性の低い保険から順次解約・縮小を検討する
  6. 掛け捨て保険への切り替えを検討する

「保険を解約するのが怖い」という感覚は理解できますが、不要な保険に払い続けることは「確実な支出」です。保険料を投資に回すことで得られるリターンとの比較で判断することが合理的です。

生命保険の「比較サイト」と「保険代理店」——活用の注意点

保険の見直しをする際に「保険比較サイト」や「FP(ファイナンシャルプランナー)相談」を利用する方もいます。利用する際の注意点があります。

多くの保険比較サイト・保険代理店FPは「保険を成約することで報酬を得る」ビジネスモデルです。見直しの結果「保険不要」という結論になっても報酬は発生しないため、「何らかの保険を勧める方向」のアドバイスになりやすい構造があります。

中立的なアドバイスを求める場合は「独立系FP(手数料制)」に相談することをお勧めします。相談料は1〜2万円程度かかりますが、「保険を売らないことを前提とした中立的なアドバイス」が期待できます。

まとめ——「必要最小限の保険」と「最大限の投資」が正解

保険と投資のバランスについての考え方をまとめます。

「保険は必要最小限に絞り、浮いた保険料を投資に回す」——これが長期的な資産形成において最も合理的な選択です。

具体的な設計例(35歳・子ども2人の会社員の場合):

  • 死亡保険:掛け捨て定期保険(3,000〜4,000万円・20年)月5,000〜8,000円
  • 医療保険:必要性を見極め(高額療養費制度でカバーされる分は不要の可能性)
  • 就業不能保険:月収の50〜60%を補填するタイプ(月5,000〜10,000円程度)
  • がん保険:高額療養費制度で十分な場合は不要か最小限

合計保険料:月1〜2万円程度。現在の保険料が月3〜5万円なら、見直しで月1〜3万円の余裕ができます。その分をNISAに回せば、30年後の資産形成に大きな違いをもたらします。

「生命保険と資産形成の分離」——最も重要な原則

生命保険の最大の落とし穴は「保障と貯蓄を一つの商品で解決しようとする」という設計にあります。

「終身保険・養老保険・学資保険」という「貯蓄型保険」の問題点

「保障しながら貯蓄もできる」という売り文句の貯蓄型保険は、長年日本で人気を集めてきました。しかし金融の専門家から見ると「最も費用対効果の悪い金融商品の一つ」です。

問題点:

  • 「保険会社の運営コスト・代理店手数料・利益」が保険料から差し引かれるため、「純粋な運用に回るお金」は支払い保険料の60〜80%程度
  • 「解約返戻金は払込保険料の70〜90%」(特に早期解約の場合は大きく目減り)。「元本保証に見えて実は損をするリスクがある」
  • 「保険料の運用利回りが低い(かつては予定利率が高かったが、低金利環境下で大幅低下)」

「分離戦略」の合理性

「保障はかけ捨て保険で、貯蓄は投資信託(NISA・iDeCo)で」という「分離戦略」の方が、トータルで有利になる場合がほとんどです。

比較例:月5万円を「終身保険(解約返戻率90%)」vs「掛け捨て定期保険+低コストインデックス投資(年5%期待リターン)」に30年入れた場合、後者の方が圧倒的に資産が増えます。

「死亡保障の必要額」——自分に本当に必要な額を計算する

「死亡した場合に遺族が必要なお金(遺族の必要生活費)」から「すでにある資産・公的保険(遺族年金等)」を引いた額が「純粋に必要な死亡保障額」です。

必要な死亡保障額の概算計算

  1. 「遺族の生活費(月20〜25万円)× 子供が独立するまでの年数(例:15年)」= 3,600〜4,500万円
  2. 「住宅ローン残高」(団体信用生命保険で完済される場合は不要)
  3. 「子供の教育費」
  4. 「合計から控除」:遺族年金(厚生年金 + 遺族基礎年金)・配偶者の収入・現在の貯蓄・投資資産

「必要な保障額」を計算すると「思ったより少ない」という方もいれば「大きな保障が必要」という方もいます。「感覚でなく計算で保険を選ぶ」ことで、過剰な保険料を払うことを防げます。

「医療保険・がん保険」——本当に必要か

死亡保険以外に「医療保険・がん保険」に加入している方も多いです。これらの必要性についての私の考えを率直に述べます。

日本の公的医療保険の手厚さを正確に理解する

日本の公的医療保険(健康保険・国民健康保険)は、世界的に見て非常に手厚い制度です:

  • 「高額療養費制度」:月の医療費自己負担が一定額(年収によって異なるが、標準的な月収の方は約80,000〜90,000円)を超えた分は払い戻される
  • 「限度額適用認定証」を事前に取得すれば、病院窓口での支払いを高額療養費の自己負担限度額に抑えられる

「がんで入院して手術・治療を受けても、高額療養費制度を使えば月10万円以下の自己負担で済む場合が多い」という現実は、「がん保険に入らないとがんになった時に破産する」というセールストークが誇張であることを示しています。

医療保険・がん保険が有効なケース:

  • 「貯蓄がほとんどない・緊急時の現金がない」という方(貯蓄が増えれば不要になる)
  • 「先進医療特約」:公的保険適用外の治療技術への備えとして、月数百円の先進医療特約だけ付けるのは合理的

まとめ——「保険は『安心を買う』手段、そのコストを正確に理解する」

生命保険・医療保険の本質は「確率的な大きなリスク(死亡・重篤な病気)に対する備え」です。「ゼロか全かのリスク対応」に最も合理的な手段が保険です。

しかし「低確率のリスクに対して毎月高い保険料を払い続ける」ことのコストを正確に認識することが重要です。「保険は減らして、その分を投資に回す」という選択が、長期的な資産形成において合理的な場合が多いというのが私の結論です。

著者

岸 泰裕(きし やすひろ)

早稲田大学大学院金融工学MBA取得。元外資系バンカー。財務・IR・ガバナンス・ESG専門。著書3冊、累計調達額480億円、明治大学リバティアカデミー講師(2014年〜)。

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