岸泰裕です。
2024年から2025年にかけて、高級時計市場(二次流通市場)で何が起きたか、皆さんはご存知でしょうか。
一時期、定価の3倍、4倍で取引されていた人気モデルが、バブル崩壊のごとく急落しました。
「投機」目的で購入していた層は、大きな含み損を抱え、市場から退場を余儀なくされました。
一方で、私が専門とするアンティークコインや、一部のミュージアムピース級のアートは、その間も価格を維持、あるいは上昇させ続けました。
なぜ、このような差が生まれたのか。
2026年の今、資産家が知っておくべき**「Store of Value(価値の保存)」**の本質についてお話しします。

1. 現代の高級品は「工業製品」である
冷徹な事実を言います。
現行のロレックスやパテック・フィリップ(ノーチラス等)は、どんなに品薄商法をとっていても、本質的には**「再生産可能な工業製品」**です。
メーカーは需要があれば増産できますし、数年後にはより高性能な新型モデルを発表します。
つまり、供給は「無限」に増える可能性があり、旧モデルは「型落ち」になる宿命にあるのです。
コロナ禍のバブルは、世界的なカネ余りが生んだ一時的な需給の歪みに過ぎませんでした。
金利が上がり、マネーが収縮すれば、適正価格(定価+α程度)に戻るのは必然だったのです。
2. アンティークは「二度と増えない歴史」である
対して、100年前、200年前に発行されたアンティークコインや、物故作家のアートはどうでしょうか。
これらは**「供給が完全にストップしている」**資産です。
どんなに需要が高まっても、19世紀の「ウナ&ライオン」金貨が新しく発行されることは絶対にありません。
それどころか、紛失や破損によって、現存数は減る一方です。
経済学の基本原則。
「供給が固定(または減少)され、需要が増加すれば、価格は上がるしかない」。
このシンプルなメカニズムが、アンティーク資産の価格安定性を支えています。
3. 「他人の目」か「自己の所有欲」か
時計バブルの崩壊は、多くの人が「インスタグラムで見せびらかすため」「値上がり益を得るため」に買っていたことを露呈させました。
流行り廃りに左右される資産は、資産保全には向きません。
一方、アンティークコインのコレクターは、歴史的背景や芸術性に魅了されて購入します。
「他人にどう見られるか」ではなく「自分がそれを保有し、継承することの喜び」に価値を置いているため、不況になっても簡単には手放しません(=売り圧力が出にくい)。
4. 結論:本物を見極める眼を持て
もちろん、時計を否定するつもりはありません。素晴らしい工芸品であり、着けて楽しむものです。
しかし、それを「投資」と呼ぶのは2026年ではリスキーです。
あなたの資産ポートフォリオの中に、「工場で作られたもの」ばかりが並んでいませんか?
「歴史によって証明され、二度と作ることができないもの」。
真の富裕層が、最後にたどり着くのはここなのです。
「希少性の本質」——工場製品と非再生産資産の違い
ロレックスとアンティークコインを例に、「投資価値のある希少性」と「ブランドが作った希少性」の違いを整理します。
- 工場製品の希少性:意図的な生産量制限によって作られる。メーカーが価格維持より利益拡大を選べば生産量を増やせる。実際ロレックスは2023〜2024年に生産量を増やしたとされており、希少性が薄れた結果、二次市場価格が急落した
- 非再生産資産の希少性:物理的・歴史的に再現不可能。1794年のコインは何があっても1794年に製造されたものしか存在しない。アート・古美術・土地(特定立地)も同様
「価格が上がったから価値がある」という後付けの論理は危険です。価値の源泉が「再生産不可能性」にあるかどうかを見極める眼が、本物の投資家に求められます。
「見た目の豊かさ」vs「本質的な豊かさ」——消費と投資の分岐点
高価な時計・スポーツカー・ブランドバッグを否定するつもりはありません。これらは人生を豊かにする「消費財」です。問題は、それを「資産」と混同することです。
外資系証券時代、私の周りには「高給取りなのに資産がない」人が多くいました。彼らの共通点は、見栄えの良い消費財に収入のほとんどを使い、「資産を生む仕組み」を作っていなかったことです。一方、本当の資産家は外見が質素なケースも多い。彼らは消費を最小化し、資産を最大化することに集中しています。
「何を所有しているか」で人を判断する社会の中で、「何を生み出しているか」で自分を評価できる人が、最終的に真の豊かさを手に入れます。ロレックスの暴落は、その教訓を市場が値段をつけて示してくれた出来事でした。