執筆者:岸 泰裕(きし・やすひろ)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了(金融工学MBA)。日興シティグループ証券をはじめ外資系金融でキャリアを積み、上場企業の財務・IRを歴任しました。現在は事業会社で財務を担うかたわら、明治大学リバティアカデミー講師、社外取締役・顧問を務めています。著書に『はじめての米国株入門』『新NISAではじめる米国株』(ともに成美堂出版)ほか。→ 詳しいプロフィールはこちら
「SpaceXはもうIPOしたの?」「なぜ公募割れしているの?」「今から買っても大丈夫?」——この記事を書いている今、こうした疑問を持つ方が急に増えています。結論から言えば、SpaceXは2026年6月にすでに上場しており、7月に入って公募価格を下回る「公募割れ」の状態に入っています。何が起きているのかを、外資系投資銀行で学んだ視点から整理します。
SpaceX(SPCX)のこれまでの株価推移
SpaceXは2026年6月12日、ナスダック市場に「SPCX」として上場しました。公募価格は135ドル、初値は150ドル(+11.1%)と好スタートを切り、評価額は約1.77兆ドルという史上最大級のIPOになりました。
しかし上場から1ヶ月半が経った現在、状況は一変しています。上場後の高値225.64ドルから株価は下落を続け、7月23日には上場来安値110.85ドルを記録。直近では113ドル台で推移しており、公募価格135ドルを2割近く下回る「公募割れ」の状態です。
「史上最大のIPO」として熱狂的に迎えられた銘柄が、わずか数週間で公募割れするというのは、決して珍しい展開ではありません。むしろ大型テックIPOでは繰り返されてきたパターンです(この点は後述する過去の先例で詳しく見ていきます)。
公募割れの背景——なぜ株価は下落しているのか
今回の下落には、主に3つの要因が重なっています。
① 空売りの急増
浮動株の約3割に相当する規模の空売りが積み上がっていると報じられています。上昇を見込む買い方と、行き過ぎた期待の巻き戻しを狙う売り方がせめぎ合っている状態です。
② ロックアップ解除への警戒
8月6日には、約1,160億ドル相当(約9億株)という前例のない規模の株式がロックアップ解除により市場で売却可能になります。上場前から株式を持っていた従業員・投資家の売り圧力を市場が先回りして織り込みつつある局面です。
③ 期待先行からの調整
上場直後は「夢の企業」への期待が価格に最大限織り込まれた状態になりやすく、その後の調整は大型テックIPOではむしろ通常のパターンです(Uber・Airbnb・Metaの先例は本文後半で解説します)。
今後の重要な節目——8月の決算とロックアップ解除
SpaceXへの投資を検討するなら、今後の2つの節目を押さえておく必要があります。
8月4日:上場後初の決算発表
2026年第2四半期の決算が発表されます。市場予想は売上高68億ドル、EPS(1株当たり利益)はマイナス0.22ドル。上場後初めて「数字」で実力が試される場面です。
8月6日:史上最大級のロックアップ解除
約9億1,500万株、金額にして約1,160億ドル相当が売却可能になります。決算発表の直後というタイミングも重なり、株価にとって大きな試練になると見られています。
なお、モルガン・スタンレーのアナリストは「オーバーウェイト」の投資判断と目標株価300ドルを据え置いています。現在の株価水準からは強気な見立てですが、短期的な需給の悪化(空売り・ロックアップ解除)と、中長期の事業評価は別軸で考える必要があります。
日本からSpaceX株(SPCX)を買う方法
IPO抽選の申し込み期間は既に終了しています。現在は、他の米国株と同じように証券会社を通じて普通に売買できます。
SBI証券・楽天証券などが取り扱っており、楽天証券では円貨決済・購入手数料無料で取引可能です。特別な手続きは不要で、通常の外国株口座があればそのまま注文できます。
SpaceXを投資家として評価するための3つの視点
① 収益の多様性
収益源はロケット打ち上げとStarlinkの2本柱です。軍・政府契約も多く安定性がありますが、設備投資が莫大で利益率は低くなっています。
② Starlinkの成長性
加入者数は急増中です。社会インフラとしての役割も担っており、長期的な成長余地は大きいといえます。
③ イーロン・マスクリスク
テスラ同様、マスク氏の言動が株価に大きく影響する可能性があります。政治的発言、他事業との利益相反——これらは無視できないリスクです。
よくある質問(FAQ)
Q. SpaceXのIPOはいつでしたか?
A. 2026年6月12日、ナスダック市場に「SPCX」として上場しました。公募価格135ドル、初値150ドルで、評価額は約1.77兆ドルという史上最大級のIPOでした。
Q. なぜSPCXは公募割れしているのですか?
A. 上場後の高値225.64ドルから株価は下落を続け、7月23日には上場来安値110.85ドルを記録しました。浮動株の約3割に相当する空売りの積み上がりと、8月6日に控える史上最大級のロックアップ解除への警戒が主な背景です。
Q. 今後の注目イベントは何ですか?
A. 8月4日に上場後初の決算発表(市場予想は売上高68億ドル、EPSはマイナス0.22ドル)、8月6日に約1,160億ドル相当のロックアップ解除が控えています。この2つが短期的な株価の分水嶺になると見られます。
Q. 日本からSpaceX株を買う方法はありますか?
A. IPO抽選は既に終了しており、現在はSBI証券・楽天証券など米国株を取り扱う証券会社を通じて、他の米国株と同様に通常購入できます。楽天証券では円貨決済・購入手数料無料で取引可能です。
SpaceX関連の最新動向を追うためのポイント
SpaceXへの投資を検討するなら、以下の情報源を定期的にチェックすることをお勧めします。
- SEC EDGAR:決算資料(10-Q・8-K等)はここで全文確認できます
- SpaceX公式リリース:打ち上げ実績・Starlink加入者数の定期発表
- NASAの契約情報:政府・軍事受注の規模感を把握できます
- イーロン・マスク氏のX(旧Twitter):直接的な情報発信が多い(ただし株価への影響も大きいため注意が必要です)
この記事のまとめ——投資家が今すぐ確認すべきこと
SpaceX(SPCX)は2026年6月に華々しく上場した後、わずか1ヶ月半で公募割れという厳しい局面を迎えています。しかし「下がったから終わり」と単純に捉えるのではなく、何が起きているかを事実ベースで押さえておくことが重要です。
まず、8月4日の決算と8月6日のロックアップ解除という2つの節目を手帳に書き込んでおきましょう。この2つを通過するまでは、需給要因による値動きが事業の実力以上に大きくなりやすい局面です。
次に、OpenAIとAnthropicのIPOスケジュールも引き続き注視してください。この2社は既にS-1を提出しており、2026年秋以降の上場が見込まれます。SpaceXの動向は、この2社への市場の見方にも影響を与える可能性があります。
最後に、決算資料(10-Q等)を自分で読める状態にしておくこと。売上高・利益率・セグメント別の数字を自分の頭で解釈できるかどうかが、短期的な値動きに振り回されず判断する力になります。
「下がったから怖い」でも「有名企業だから安心」でもなく、事実と数字に基づいて判断する——これが、IPO後の乱高下する局面で結果を出す人に共通する姿勢です。
Starlinkという事業の本質——なぜSpaceXの企業価値を押し上げているのか
SpaceXへの投資を考える上で、Starlinkを理解することは避けて通れません。むしろ「SpaceXへの投資=Starlinkへの投資」と言っても過言ではないほど、Starlinkはこの会社の企業価値の中核を担っています。
Starlinkは、低軌道衛星を利用した衛星インターネットサービスです。地上のインターネット回線が届かない農村部・離島・船舶・航空機にも高速通信を提供できます。現在、世界100カ国以上でサービスを展開しており、加入者数は急増中です。
ビジネスモデルとしての強さは「参入障壁の高さ」にあります。数千基の衛星を打ち上げるコストと技術力は、簡単に模倣できるものではありません。AmazonのProject Kuiperなど競合が存在しますが、先行者優位はStarlinkが圧倒的です。さらに、軍事・政府用途での採用(ウクライナでの活用が広く報道されました)が、収益の安定性をさらに高めています。
投資家として注目すべき点は、ロケット事業(Falcon 9・Starship)は設備投資が莫大で利益率が低い一方、Starlinkは月額サブスクリプション型の安定収益が期待できることです。決算発表のたびに、この2本柱それぞれの収益構造がどう推移しているかを確認する価値があります。
SpaceX IPOの先例——過去の大型テックIPOから何を学ぶか
SpaceXの公募割れをどう捉えるべきか、過去の大型テックIPOを振り返ることで、判断の参考になる知見が得られます。
Uber(2019年上場)は上場初日から株価が下落し、ロックアップ解除後にさらに下落しました。しかしその後、事業が安定するにつれて株価は上場時を大幅に超えるレベルまで回復しています。Airbnb(2020年上場)は上場初日に公募価格の2倍以上まで急騰しましたが、その後半年で40%近く下落した局面がありました。Meta(旧Facebook、2012年上場)は上場後1年で株価が半値以下になりましたが、長期保有した投資家は10倍以上のリターンを得ています。
これらに共通するパターンがあります。大型テックIPOの上場直後は「期待値が最大に膨らんだ状態」であり、その後の調整が来やすいということです。しかし事業の実力が伴っている企業は、長期的には上場時の評価を正当化するかそれ以上に成長します。
SpaceXの現状に当てはめれば、今回の公募割れも「上場直後によくある調整局面」の一つと捉えることができます。ただし、それは「だから買うべき」という意味ではありません。Uber・Airbnbのように調整後に回復した銘柄もあれば、実力が伴わず低迷が続いた銘柄もあります。分かれ道になるのは事業の実力そのものです。
重要なのは、「有名企業だから」「話題だから」で判断せず、8月4日の決算資料を自分で読める状態にしておくことです。売上高・利益率・セグメント別の数字・リスク要因——これらを決算資料から読み取る準備こそが、この局面での本当の意味での「準備」です。
SpaceX投資に関する追加のQ&A
Q. SpaceX株(SPCX)は新NISAで買えますか?
SpaceXは既に米国市場(ナスダック)に上場していますが、新NISAの成長投資枠で買えるかどうかは、利用する証券会社の取扱い方針によります。SBI証券・楽天証券など主要ネット証券の最新の対象銘柄一覧で確認してください。また、IPO直後の個別株は値動きが大きく、長期・分散を前提とする新NISAの趣旨とは相性が良くない点にも注意が必要です。あわせて新NISAの成長投資枠で何を買うべきかもご覧ください。
Q. SpaceXのバリュエーション(PSR)は割高ではありませんか?
直近の株価水準でも、SPCXのPSR(株価売上高倍率)はテック大型株の中で高い水準にあります。重要なのは「Starlinkの収益成長がその倍率を正当化できるか」です。私が外資系金融や上場企業の財務の現場で見てきた経験から言えば、夢のある企業ほど期待が価格に織り込まれ、成長が少しでも鈍ると大きく調整します。8月4日の決算で売上高・利益率・セグメント別の伸びを確認し、期待と実力の差を冷静に見極めることが、割高・割安を判断する出発点です。
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著者プロフィール
岸 泰裕|早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了(金融工学MBA)。外資系金融機関を経て、上場企業で財務部長・財務責任者を歴任。480億円のシンジケートローン組成、R&IのA-格付取得を主導し、東証グロース市場への上場(2025年3月)に財務・IR担当として関与。現・イグニションポイント株式会社 財務担当マネージャー。明治大学リバティアカデミー講師。著書3冊。近著『日本株「配当×株主優待」で生活費消し込み投資』(ART NEXT)。詳しい経歴はプロフィールをご覧ください。
著者
岸 泰裕(きし やすひろ)
早稲田大学大学院金融工学MBA取得。元外資系バンカー。財務・IR・ガバナンス・ESG専門。著書3冊、累計調達額480億円、明治大学リバティアカデミー講師(2014年〜)。