春闘5.12%賃上げという「数字のマジック」

岸泰裕です。

連合の2次集計で、2026年春闘の賃上げ率が5.12%、中小企業でも5.03%という数字が出ました。
メディアは「3年連続5%台」「歴史的な賃上げ継続」と大騒ぎしています。

しかし財務の視点で、この数字を冷静に解剖してみましょう。5.12%という数字は、あなたの生活が5.12%豊かになったことを、1ミリも意味しません。

1. 「連合集計」という数字のサンプリング・バイアス

まず押さえるべき事実があります。連合の集計対象は、組合組織率の高い大企業・公務員が中心です。
日本の労働者の約7割は、労働組合のない企業に勤めています。つまり連合の「5.12%」は、日本の全労働者の3割以下を代表する数字に過ぎません。

しかも、定期昇給(年功で自動的に上がる部分)を含めた数字です。純粋なベースアップ(賃金水準の底上げ)だけで見れば、数字は大幅に縮みます。これは財務諸表で言えば、一時的な特殊要因込みの「営業外収益」を含む経常利益を「本業の実力」として提示するようなものです。

2. インフレ率との差分こそが「本当の答え」

名目賃上げ率5.12%。では現在のインフレ率は何%か。
食品・光熱費・サービス費を含む消費者物価は、依然として3〜4%台の高水準で推移しています。さらに今後、ホルムズ海峡封鎖に伴う原油高が家計を直撃すれば、インフレ率は再び上振れするリスクがあります。

名目賃上げ率5% ー インフレ率4% = 実質賃上げ率1%。
そこから税・社会保険料の増加分を差し引けば、手取りベースの実質賃金増加はほぼゼロか、場合によってはマイナスです。「5%の賃上げ」という言葉が与える印象と、実態は全く別物なのです。

3. 中小5.03%の「賃上げ原資」はどこから来るのか

さらに危険なのが中小企業の5.03%という数字です。
上場企業と異なり、多くの中小企業には「内部留保」も「為替差益」も「AI投資による収益増」もありません。

賃上げ原資がない企業が賃上げをするとき、何が起きるか。価格転嫁(値上げ)か、採用抑制か、倒産の前倒しか。この三択です。
「政府の要請に応えた」賃上げが、実は企業の体力を削り、数年後の倒産増加の「種まき」になっているとすれば、これは経済政策の成功ではなく、深刻な失敗の予兆です。

結論:「賃上げ率」ではなく「手取り増加額」で判断せよ

春闘の数字に踊らされてはいけません。あなたが確認すべきは、今年4月の給与明細の「手取り額」が、昨年4月と比較して実際にいくら増えているかです。

数字は常に「誰が、何の目的で、どう集計したか」を問うことが、本物の金融リテラシーの出発点です。
美しい春闘の数字に安堵して、自分自身のスキルアップと副業・資産運用を怠ることが、最も危険な「思考停止」です。

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